【インタビュー】謎を秘めたヴォーカリスト・超学生の才能の根源「やりたいことがあるならやらなきゃ損でしょ!」

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耳に残るガナリヴォイスに魅せられる人々が急増している。その正体がベネチアンマスクがトレードマークの、2001年生まれのヴォーカリスト・超学生だ。小学校4年生で“歌ってみた”を初投稿し、高校を卒業した2020年にはVOCALOIDクリエイター書き下ろしによるオリジナル曲をリリース。歌ってみた、オリジナル曲ともに様々なジャンルに挑戦し続けている。

◆ミュージックビデオ

そんな彼の2022年第3弾となるオリジナル楽曲が「インゲル」。作詞はダ・ヴィンチ・恐山の名で知られる小説家の品田遊が手掛けており、アンデルセンの童話『パンをふんだ娘』をモチーフにした奇怪かつユーモラスなアッパーナンバーだ。今回のインタビューでは「インゲル」についてはもちろん、超学生の歩みを振り返りながら、彼がどんなヴォーカリストなのかを探っていった。

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■歌ってみたを週1投稿してても、やりたい曲が間に合わないくらい溢れてる

──超学生さんが歌ってみたを始めるきっかけになったのは、小学4年生の時にVOCALOIDと出会ったことだそうですね。livetune feat. 初音ミクの「Tell Your World」が使用されている、Google ChromeのCMをご覧になったと。

超学生:合成音声という概念がすごく強烈だったんです。あのCMにも一瞬なんですけど、パソコンに打ち込んで歌を作るシーンが映っていて。それを観て「新しすぎる!」と興奮しました。もともとゆっくりボイスや、パソコン1台あればいろんな楽器の音が出せるのが面白いなと思っていたので、そのCMを観て「歌まで歌えちゃうんだ!」と感動したんです。

──それまではどんなものにのめり込んでいたんですか?

超学生:手品が好きでした。大人が読むような難しいマジックの本を親に用意してもらって、子どもなりに頑張ってましたね。あとラテアートにハマってたときもありました。自分では飲めなかったので、作るだけ作って親に全部飲んでもらってましたけど(笑)。

──ははは。超学生さんの好奇心に対して、親御さんは好意的だったんですね。

超学生:最初は毎回「どうせまた飽きるんでしょ」って渋るんです(笑)。でも最終的には「そんなにやりたいんだったらやってみれば」と応援してくれるタイプでしたね。だからVOCALOIDをYouTubeで観漁ってたら関連動画で“歌ってみた講座”にたどり着いて、そこで歌ってみたを知ったときも、その日のうちに父に相談したら小さいマイクを買ってくれたんです。

──手品にラテアート、そして歌ってみた。どれも結構手が掛かるのに、ものすごい行動力ですね。

超学生:ヒマだったんだと思います(笑)。当時はサッカーとバスケをやっていたんですけど、全国大会を目指すような厳しいものではなかったので、時間はじゅうぶんありました。小4の終わりに初めて歌ってみたを投稿して、中学に入ってから部活が本格化するんですけど、その気晴らしに歌ってみたを上げている生活が自分にとって丁度よくて。と思えば映画にハマったり絵を描き出したりもして(笑)。なんでも興味を持っちゃうタイプなんです。

──でもここまでしっかり続いているのは“歌ってみた”なんですよね。その理由はどんなところにあるのでしょう?

超学生:音楽にはいろんな選択肢や表現方法があるのが、いちばん大きな理由だと思います。マジックも奥深いけど、特別な道具を買ったりしない限りは主に使うものはカードとコインのふたつなんですよね。でも音楽はいろんなジャンルがあって、いろんな音があって、いろんな機材があって──そのなかで細かくマイブームがあったりするんですけど、すべてが音楽の枠からはみ出ていないというか。その結果10年続いてきたのかなと思います。

──確かに“歌ってみた”と一言で言っても、歌うだけではなく、選曲、ミックス、ミュージックビデオ制作などなど1曲をアップするのに様々な行程があります。いろんな手順があることが、超学生さんにとっては魅力的だったのかも。

超学生:ああ、そうかもしれないですね。だから中学高校と、部活と並行しながら動画をアップしてこれたのかなと思います。中学3年生ぐらいで漠然と、エンジニアさんでもPAさんでも、裏方で作曲する人でも、何かしら音楽で仕事ができたらいいなと思うようになりました。実際に音楽の仕事をしてみて、娯楽をお仕事として作れるのは最高なんじゃないかなと思っていて。

──と言いますと?

超学生:多くの人にとって音楽は、趣味だったり、暇つぶしだったり、息抜きだったり……日常の楽しみだと思うんですよね。もし僕が音楽の仕事をやっていなかったら、たぶん毎日音楽を聴いているようなヘビーリスナーになっていた。だから作り手側の活動を仕事にできることが、僕はすごく楽しいしありがたいんですよね。あと、音楽の仕事をしている人たちは“プライベートでは音楽を聴きたくない”みたいな人がほとんどいない気がしていて。仕事で関わる人がみんな音楽好きなのも、この仕事をしていて幸せだなと感じる瞬間のひとつですね。

──安易な言葉ですが、心底音楽が大好きなんですね。

超学生:あははは、本当にそうです。純粋な気持ちで大好きですね。

──超学生さんは様々なジャンルに挑戦していますが、それもいろんなものを楽しみたいがゆえでしょうか?

超学生:そうですね、好きなジャンルがかなり広いタイプではあると思います。聴くぶんにはヴォーカリストの方の声とオケの相性がいいものとか、ミックスの音が気持ちがいいものを好みがちなんですけど、歌う場合は自分の声質に合う曲を探すというよりは、「この曲は僕の声には全然向いてないな」と思いながらミックスすることもよくあって(笑)。

──へええ、そうなんですか。

超学生:個人的には可愛い系の曲が合わないなと感じることが多くて。だから1回録ってみてミックスしてるときになんか違うなあと思ったら、もう一度録り直してみたりしますね。1回ミックスしてみると「こういうふうに声を出したら僕の声でもギリ合うんじゃない?」みたいなのが見えてくるんです。

──個性的な声なのにどんな曲も歌いこなせる人だなと思っていましたが、裏にはそういう努力があったんですね。

超学生:「どうしてもやりたくない」というジャンルの曲もないし、似たタイプの曲ばっかり歌っていたら飽きてきちゃうし。超学生といったらこれ!みたいなイメージは固めたくないなと思っているんです。毎回必ずヒットさせなきゃ!と気負っているわけでもないし、どんな曲を歌っても大丈夫って思ってますね。だから「超学生、今回はこんな曲出すんだ!」と驚いていただけたらうれしいなあ。歌ってみたを週1投稿してても、やりたい曲が間に合わないくらい溢れてるんです(笑)。

──超学生さんの底なしの好奇心はどれにも共通しているということですね。高校を卒業なさってからはオリジナル曲もリリースなさって、表現の幅を広げています。

超学生:ボカロPさんの書き下ろし楽曲をやりたいという願望は、結構昔からずっとあって。それで高校卒業して落ち着いたタイミングで、すりぃさんとsyudouさんにお声掛けをしました。個人的にもよく聴かせていただいていたボカロPさんですし、おふたりの作った楽曲は僕の歌ってみたの中でも特にたくさんの方に聴いていただけていて。それですりぃさんに「ルームNo.4」、syudouさんに「バットオンリーユー」を書き下ろしていただいて、2週連続でリリースしたという流れですね。





──楽曲制作はどのように進みましたか?

超学生:だいたいボカロPさんは「僕の作った曲のなかで好きなのはどれですか?」と訊いてくださるので、すりぃさんには「ジャンキーナイトタウンオーケストラ」や「ビーバー」みたいなエレクトロスウィング、おしゃれな感じの曲が聴いてみたいですとオーダーしました。syudouさんはどんな歌詞の内容がいいかヒアリングしてくださったんです。syudouさんの歌詞はインターネットに対する解像度がものすごく高いなと思っていたので、そういうものが歌えたらとお願いをして。そこからsyudouさんなりのテイストや解釈が入って、あの歌詞になりましたね。

──超学生さんはご自分のオリジナル曲でも、クリエイターそれぞれの個性や魅力的な部分を生かしてほしいと考えてらっしゃるのかなと、お話を聞いていて思いました。

超学生:本当ですか? よかった。それは歌ってみたをやってきたのも大きいかもしれません。楽曲の主人公になったつもりで歌っているんですけど、その際に楽曲ファンの皆さんが違和感を覚えるものにはしたくなくて。解釈違いにならない歌ってみたを作りたいという気持ちは根底にありますね。それを実現するためには、その曲の良さや、楽曲の持っている核心を理解できないといけないので、歌ううえですごく大事にしていることではありますね。

──2022年にリリースされた「Untouchable」と「Fake Parade」はVOCALOIDクリエイターさんではなく、J-POPシーンや海外のシーンに精通したソングライターさんが手掛けた楽曲です。VOCALOIDクリエイターさんとJ-POPシーンで活躍するソングライターさん、それぞれの楽曲を歌ううえでの違いはありますか?

超学生:ボカロPさんの書き下ろし曲を歌うときは、そのボカロPさんの作ってきたVOCALOIDの声やもともとのイメージが強くあるんですけど、作家の皆さんは提供先のヴォーカリストに合わせた楽曲をお作りになっていると思うんです。本当にいろんなジャンルの方々の楽曲を作っていて、受けるオーダーも毎回全然違って、ご本人たちが今作りたい曲をずっと作り続けてるとは限らないというか。





──確かにそうですね。VOCALOIDクリエイターさんはずっとご自分のやりたい音楽を追求なさっている方々ですから、作家というよりアーティストの意味合いが強い。

超学生:だからボカロPさんの書き下ろし曲では、なるべくボカロPさんの世界観に歩み寄って歌いたいなと思っています。逆に作家として活躍されている方々は、僕に合わせて曲を作ってくださっている。“超学生の声でこれが聴きたい”という楽曲を提示していただくことが多いので、自然体で歌えるところは大きいかもしれませんね。実際に「Fake Parade」はすべておまかせして作っていただいた曲なんです。僕にすごくフィットしていて歌いやすいし、「Fake Parade」はソングライターの辻村(有記)さんの内側を覗いてるような感覚もありました。だからなおさら魅力的に聴こえると思うんです。

──超学生さんの歌声は、心に秘めている思いを吐き出すというシチュエーションが映えるのかもしれないですね。

超学生:ああ、なるほど。確かにそうですね。自分が選ぶ曲も、なんとなくそういうのが多いかもしれない。「Fake Parade」は共感を求めるような曲じゃなくて、“俺はこういう人間なんだよ。素敵でしょ?”という視点の曲だと思うんです。歌ってみたにはあんまりない世界観だから新鮮でしたね。お気に入りの曲です。

──そして今回2022年のオリジナル楽曲第3弾の「インゲル」は、作詞が品田遊さん。またの名をダ・ヴィンチ・恐山さんです。超学生さんとは仮面つながりですけれども。

超学生:あははは、そうですね。昔からいろんな本を読むのが好きで、今回は小説家の方に歌詞を書いていただきたいなと思っていたんです。品田遊先生も大好きな作家さんで、あの奇妙な感じや、必ずしも明確なオチがあるわけでもなく“なんとなく気持ち悪い”っていう雰囲気を楽しむ作品も書かれているのがすごくいいなと思っていて。この方がいったいどんな歌詞を書くのか、いちファンとして聴いてみたい──それがひとつの大きな理由でした。



──アンデルセンの『パンをふんだ娘』がモチーフになった歌詞ですよね。

超学生: 「メルヘンだと思ったら急にひっくり返るような、童話っぽい世界観でお願いします」と伝えて、返ってきたのがこれですね。童話って一見メルヘンなんだけど、裏側に隠れてる不気味さも魅力なんじゃないかなと思っていて。「インゲル」は、その“本当は怖い”みたいなところを濃縮してぶつけてきたような歌詞になっていると思います。僕自身が「あれは結局何だったの……?」みたいなじっとり残る感じのものが好きなので、本当にイメージどおりで。めちゃくちゃ期待してはいたんですけど、出来上がったものを読んでさすがだなと思いました。

──曲の展開も多いので、ミュージカルを耳で体験しているような感覚がありました。

超学生:こんなミュージカルあったら恐ろしいですけど(笑)。

──あははは。曲の展開と同じくらいヴォーカルの表情が違うので、ストーリー性を感じたんです。

超学生:最初の部分はいかに歌のお兄さんみたいに歌えるか、めちゃくちゃ気を付けましたね。最初から不気味な雰囲気が出るような歌い方はしたくなくて。「あれ、今回はこんなメルヘンな感じなんだ」と思わせておいてひっくり返したかったんです。サビはめちゃくちゃかっこいいんで、シンプルにかっこいいと思ってもらえるような歌い方にしましたね。オペラのところは難しかったです(笑)。

──そのあたりのアイデアは作曲担当のTOKYO LOGICのお二方と相談しつつお決めになったのでしょうか?

超学生:そうですね。積極的にヴォーカルのアイデアをくださる方だったので、都度相談しながら気軽にどんどん声を重ねて「こういうのどうですか?」とか「こっちとこっち、どっちがいいですか?」とテイクを送って。そういうやり方はすごくありがたかったですね。曲の最後にめちゃくちゃ荒い呼吸音が入るんですけど、これも僕が“ここにこういうのが入ってたら面白いな”と思って入れてみて。ヴォーカルテイクでもいろんな工夫ができました。ジャンルにとらわれずに、いろんな曲やってきた成果が出たのかなと思ってますね。

──「インゲル」の制作を経て得たものも多いのではないでしょうか。

超学生:いろんなタイプのヴォーカルテイクをたくさん録れたので、様々なマイキング技術を試せたのがかなり勉強になりましたね。こういう歌い方のときはこのマイクでこの距離で録ってみようとか、この声は振動板(声を拾う部分)を狙って歌ってみようとか、部屋の広さで響きを変えてみたりとか。本当なら別々の曲でやるようなことを1曲でできたんです。

──そうか。超学生さんにとっては録音の工夫もミックスも、ご自分の大事な表現のひとつなんですね。

超学生:歌うこと以上に、そっちに面白さを感じているかもしれない(笑)。歌ってみたは「こんなふうに録ってみよう」とか「こういうミックスをしてみたらどうかな」って全部自分で試せるんですよ。だからやりたいことが尽きないんですよね。レコーディングスタジオに行ってプロの方々が整えた場所で歌って、ライヴ活動を精力的に行っていくアーティストさんもいらっしゃると思うんですけど、僕は家で自分なりに環境を工夫しながらテイクを録って、自分の声をいじるという制作環境がすごく楽しいんですよね。

──なるほど。小学校4年生で機材の画面にときめいてVOCALOIDにハマったことも、『歌ってみた講座』を観て歌ってみたを始めたことも、レコーディング機材を映した実写ミュージックビデオを作っていることも、ミックスをご自分でやってらっしゃることも、やりたいことが尽きないとおっしゃることも、自分に合わない声の曲でも果敢に挑戦できることなどなど、全部のつじつまが合いました。

超学生:あははは、ありがとうございます。メカ好きとしては、今の環境で音楽活動ができるのはすごくありがたいんです。皆さんが聴いている超学生の声って、全部マイク越しのものなんですよね。ミックスやマイクで声は変わるので、自分なりにどの声を選んでいくのかを考えるのは、すごく面白いんです。

──それらを含めて、超学生さんの“歌”なんですね。

超学生:はい。そう思っていただけたらうれしいですね。

──そんな超学生さんが、次に挑戦してみたい音楽ジャンルなどはありますか?

超学生:ビリー・アイリッシュさんみたいな曲をやってみたいなと思っていて。あのASMRみたいな感じとか、オケの音数が少ないのに効果的な感じとか、音フェチとしては挑戦してみたいですね。ミュージカルみたいな曲調もやってみたいし……ほんとやりたいことは尽きないです。やりたいことがあるならやらなきゃ損でしょ! と思うんです。その感覚が小さい頃からあるのかも。

──特に今は超学生さんのやりたいことがどんどん実現できる環境になっているので、欲求も止まらないでしょう。

超学生:ほんとそうですね。頑張ってるようで頑張ってないようで頑張ってます……いや、頑張ってないな(笑)。それくらい音楽活動は楽しいんです。今はさらにシンガーとして強くなりたいなと思っているんです。“超学生のこういう歌が聴きたい”よりは、“僕たちは今こういう楽曲をやりたいと思ってるんだけど、超学生ならできるよね?”みたいなものを任せていただけるようなシンガーになれるのがいちばんの理想ですね。

取材・文◎沖さやこ

「インゲル」

2022年9月28日リリース

Vocal:超学生
Lyrics:品田 遊
Music・Arrangement:篠崎あやと、橘亮祐
Illust:Optie

配信リンク:https://lnk.to/chogakusei_ingel

◆超学生 オフィシャルサイト
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