【コラム】一切編集なしのライヴ映像に滾る!漲る! 〜BARKS編集部の「おうち時間」Vol.037

ポスト

2019年末に開催された<MUCC Presents『Trigger In The Box』>が5月16日(土)および17日(日)の2日間、YouTubeとニコニコ動画にて、“出演者入れ替え同時刻”による“エアフェス形式”で配信されることが発表となった。年末恒例のMAVERICK DC GROUP主催イベント<JACK IN THE BOX>が、2019年末はMUCCのジャックによる<Trigger In The Box>として姿を変え、全8時間の巨大スケールで行われた大忘年会が配信で再び。

◆「おうち時間」画像

MAVERICK DC GROUP所属アーティストや所縁の深い大御所ほか、OLDCODEXをはじめとするグルーブ外のアーティスト、さらにはシドのゆうや(Dr)によるお笑いユニット“おかゆ”など、バラエティーに富んだ出演陣は、オーガナイザーを務めたMUCCの逹瑯によるもの。企画意図やセレクション、ステージ構成についてはイベント開催前に生配信された“前哨戦特番”で逹瑯自身から語られており、BARKSではその模様をレポートしているので、今週末の配信を前にチェックいただければより楽しめるかもしれない。


▲特番『緊急生配信!都内某所、謎のスタジオ完成間近?! 逹瑯と団長が振り返る“JACK IN THE BOX to Trigger In The Box”』

見どころには事欠かない。もちろん各アーティストによるステージは言うにおよばず、大トリを飾ったセッション“Trigger In The Box Super All Stars”では、この日の出演者が入れ替わりでL'Arc-en-Cielの「fate」「Voice」「READY STEADY GO」「Vivid Colors」「Shout at the Devil」をカヴァーするなど、激レア競演にして極上メニュー。HYDEやKenといった本家本元も参加したわけだから、豪華絢爛この上ない。セッションメンバーは事前に明かされていたものの、内容はイベント当日までシークレットだったこともあって、1曲目を飾った千秋(DEZERT)、Ken、YUKKE(MUCC)、Shinya(DIR EN GREY)の4ピースによる「fate」のギターイントロが奏でられた瞬間、場内の嬌声が爆発した。

なお、カヴァー楽曲のセレクトは、逹瑯のみShinya(DIR EN GREY)のリクエストに応えたそうだが、そのほかは各ヴォーカリストが歌いたい楽曲を挙げたものであり、選曲にそれぞれの個性が表れるようで興味深い。個人的には、レンジの広さや抑揚に富んだメロディが魅力の「fate」をセレクトした千秋に胸が躍った。



▲セッション“Trigger In The Box Super All Stars”

注目はまだまだある。開場から開演までの約50分間、Kenと圭(BAROQUE)のギタリスト2名が“Ken -Ambient before the Trigger-”名義で披露したギターインストゥルメンタルセッションが、それだ。「最近、アンビエントな感じで即興でギターを弾くのにハマッてるから、それをやりたい。だから、客入れBGをやらせてくれ”とKenさんから言われた」と、前述の“前哨戦特番”でKenの参加経緯を逹瑯が明かしてくれたが、開場時間の地灯りのなかで鳴らされた即興演奏は、<Trigger In The Box>だから聴くことができた貴重なコラボ。

このイベント後に行ったBAROQUEインタビューの際、Ken -Ambient before the Trigger-のステージについて圭に訊いたところ、リハーサルなし、事前打ち合わせもコード展開を軽く話した程度──つまり正真正銘のアドリブだったという。また、“客入れBGM”だけに、ギター演奏が途切れなくアンビエント的に展開されていくわけだが、後半はKenがギターを置き、圭のエフェクターをリアルタイムで操作する場面も。圭の奏でるギターフレーズに呼応してKenが圭のギターサウンドを操り、Kenのつくる音色にいざなわれるように圭のギターフレーズが生み出されるといったコラボは、他に類を見ないギタリスト同士の掛け合いとして、至高のオープニング空間をつくり上げた。

ちなみに、配信アーティストやタイムテーブルは発表となっているが、現時点で配信曲は明かされていないので、それは配信当日のお楽しみ。


▲“Ken -Ambient before the Trigger-”

そして、昨日のエアフェス<Trigger In The Box>開催発表時にアナウンスされたのが、配信される映像がイベント当日の“ステージサービス映像”素材が元になったものだということ。これは、映像作品リリースやテレビ放送を視野に入れて撮影されたものではなく、イベント当日に巨大LED等で映し出されたものや資料用として撮影されていたものを元にした映像となる。オフィシャル曰く、「映像も音声も一切編集されていない」という意味でも、関係者以外はなかなか観られるものではない。その一端は先ごろ公開されたMUCCの特別動画『Remote Super Live〜Fight against COVID-19〜』で一足早く観ることができるので、週末を待ちきれない方はチェックを。

現在では、ライヴ作品におけるプレイの部分的な差し替えは一般的だ。ライヴ映像や音源といえど、作品であることに変わりはなく、差し替えや修正はそのクオリティを上げるために必要なもの。テクノロジーの進化によって作業自体が容易となり、ニーズを高めているということもあるだろう。しかし、“映像も音声も一切編集されていない”という今回の配信は、その空気感も緊張感も封じ込められた音源や映像として、スペシャルなサウンド&ヴィジョンを鳴らしてくれるはずだ。



さて、ここからはまったく私事で恐縮だが、“映像も音声も一切編集されていない”と聞いて、思い出したライヴ作品群がある。BOØWYだ。遡ること約15年前、別媒体で行ったBOØWYの高橋まこと(Dr)とBOØWYマネージャー土屋氏のインタビュー取材で語られたのが、「幾つも存在するBOØWYのライヴ音源および映像に、メンバーの録り直しは一切存在しない」という事実だった。

BOØWYが活動した1980年代はPro Toolsなんてものは存在せず、PCの一般普及率もほとんどない時代だったが、当時リリースされていた他アーティストのライヴ作品には修正や録り直しが行われたものも少なくないという。しかし、BOØWYは瞬間の刹那を刻銘するという意味で、その空気感と臨場感を削ぐようなエディットは微塵もしなかったそうだ。「ライヴハウス武道館へようこそ!」は、今も語り継がれる名ゼリフだが、ライヴそのものに込めた彼らの心意気を感じられるエピソードのひとつである。



1981年5月からスタートしたBOØWYの歴史は、そのまま日本ロックシーン創造の歴史となり、1988年の解散公演以降も生き続けている。大胆で繊細な発想によるサウンド&アレンジは、過去に積み上げられた固定概念を一蹴、マニアックだが実に整然としたものとして新たなスタイルを築き上げた。しかも彼らは当時まだ20代。4人が一体となって作り出すスリリングでテンションの高いステージは、到底20代とは思えぬ領域にまで達した技量を携えながら、若いパワーとエネルギーに溢れていて痛快だ。その絶妙なバランスが、儚くも完成度が高いBOØWYサウンドを生み出していたように思えてならない。

解散以降もバンドという集合体の最強の雛形として語られるBOØWYの魅力は、ライヴ作品に満ちている。“おうち時間”では、改めてBOØWYのライヴ作品群に没頭しつつ、映像も音声も一切編集されていない文字通り“ライヴ”なエアフェス<MUCC Presents『Trigger In The Box』>配信を思いっ切り楽しみたい。国立代々木競技場第一体育館という大規模会場を約8時間もの間、熱狂の渦に叩き込んだライヴイベントの配信まであとわずか。

構成・文◎梶原靖夫 (BARKS)

この記事をポスト

この記事の関連情報