【インタビュー】米倉利紀、『pink ELEPHANT』のコンセプトは「どこにも着地しない」

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米倉利紀が1月22日、通算24枚目となるオリジナルアルバム『pink ELEPHANT』をリリースする。前アルバム『analog』から1年ぶり、繊細さと力強さの象徴である象を非現実的なカラーでイメージしたという同作には、新たなアプローチによる全10曲を収録した。しなやかで軽やかでラグジュアリー、そして多彩な歌声は、あまりにも魅力的で、とにかく歌唱力が抜群。自身が全ての作詞作曲を手掛けたナンバーが夢と現実の狭間を描きながら、見たことのない景色へいざなってくれる。

◆米倉利紀 画像

EXILE ATSUSHIが憧れの存在であることを公言し、昨年はMISIAからのオファーを受けて作詞作曲した「恋人失格」でデュエットするなど、1992年のデビューして以降、J-POPにR&Bを取り込んでシーンのメインストリームを築き上げてきた米倉利紀が、最新作『pink ELEPHANT』をじっくり語ったロングインタビューをお届けしたい。また長年、筋トレを行なっている彼が考えるシンガーのトレーニングのあり方についても訊いた。

   ◆   ◆   ◆

■“適度に、適当に生きる”
■それを学ばなければいけないとき

──アルバムジャケットとなった“象と米倉さんの2ショット”。これは本物の象と一緒に撮影されたんですか?

米倉:いいえ、あれは合成ですよ。合成なんだけど、象は本物ですね。

──このジャケットが表すように新作は『pink ELEPHANT』というアルバムタイトルがつけられました。なぜこのようなタイトルにしようと思ったんですか? いままでの米倉さんの路線にはないものですよね。

米倉:これはここ数年の僕を総括した話になるかもしれないんですけど、今回のアルバムに関して、タイトルも歌詞も曲も“これだ”と決め打った気持ちで一歩を踏み出し、制作したわけじゃないんです。なので、タイトルも「なんで象なんですか?」と聞かれたら、正直深い理由はないんですよ。

▲24thアルバム『pink ELEPHANT』

──じゃあ、「なんでピンクなんですか?」というのも理由はない、と。

米倉:そうなんです。なんで理由がないようなことをタイトルにしたかというと、まさにいまの僕の心情がそれなんです。あまり決め込みすぎない、準備しすぎない。だからといって適当にやったのかというと、そうではなくて。

──“適当に本気でやった”といいますか。

米倉:ええ。納得いくポイントがこれまでとは違ってきたというか。

──ガッチリと決め込んだ場所に着地するのがいままでの米倉さんの納得ポイントだとしたら?

米倉:今回は、決め込まないでどこにも着地しない。それが今作のコンセプトなんですよね。

──なるほど。つまり、アルバムの8曲目「ALL OR NOTHING」で、“ほどよい頑張りとちょっと間抜けな息抜き”と歌い込んだフレーズは、まさにいまの米倉さんの心情を表していて、それが今作のコンセプトにも繋がってるわけだ。

米倉:そうですね。この4〜5年ぐらい、ちょっと真面目に生きすぎたなと思ったんですよ。

──え、米倉さん自身?

米倉:笑っちゃうぐらい真面目に生きすぎました。自分自身が真面目に生きすぎたというよりも、人のことを真に受け過ぎたというか。例えば、自分の解釈のなかで“この人は僕と真剣に向き合ってくれている”と思ってどんどん突き進んでいっても、向こうは案外、良くも悪くもそこまで僕とは向き合ってはいなくて。当然、僕の目を見て話してくれる人には目を見て話したいなと思いますけど。それもある程度、適当に交わしながら生きていかないと自分がもたないなと思ったんです。


──その背景には前作『analog』で米倉さんが経験なさったことが、大きく影響している気がするのですが。

米倉:そうですね。『analog』で経験したことをツアーを含めた1年間で育て、熟考し。そのなかで、“自分は真面目に生きすぎた、もっと適当でもいいんじゃないか”と思えたんですよね。例えば、『ポケモンGO』とかやられます? あれでどれだけ球を投げても球を食べるだけで捕まえられないモンスターがいるでしょ? そういう人って周りにいません?

──ああー、いますね(笑)。

米倉:どれだけ真剣にこっちが相談にのってあげても、僕の意見を食べるだけ食べてどこかに行っちゃうような人。だからといってそこで見返りを求めてるわけではないけど、あまりにもそれが度を過ぎると、“なんだったんだろう、僕があの人に費やした時間”、“なんだったんだろう、僕があの人に費やした気持ち”ってなっていく。例えばそれがツアーメンバーだとしても、半年間、1年、2年も、あんなに一緒に飯食って、あんなにいろいろな音楽の話をして、楽屋でバカ話をしながらあんなにお互いの価値観を交換し合ってきたはずなのに、ツアーが終わるとお礼の挨拶もない、ラインも既読スルーできちゃうような人って、たくさんいるんですね。

──そっ…そうなんですか?

米倉:そんなものなんですよ、実は(笑)。この間、雑誌を読んでいたら、「人間関係なんて5年も経てば“そういえばあんな人いたな”って人ばかりじゃないですか」と書いてあったのを読んで、“確かに”と思ったんです。5年も続く人間関係ってすごく限られてるんですよ。5年以上経っても、時々でもいいから連絡を取り合ってる人って、そのあと10年、20年と続きますね。だけど、5年続かない人は“ああ、いたね。そんな人”で終わるものです。

──確かにそうかもしれない。

米倉:すみません、ちょっと話がそれちゃいましたが。そういうことも含めて、これまで真面目に生きすぎたから、いい加減というのではなく“適度に、適当に生きる”。それを学ばなければいけないときがついにきたなという感じですかね。いまの僕は。

──でも、その“適度に”というのが、とっても難しい課題に思えるんですが。

米倉:そうですね。例えばジムに行って、翌日、翌々日に筋肉痛になってないと“足りてなかった”って。

──思います、すっごく思って後悔します。

米倉:ですよね。だけど、筋肉痛にならなくても、しっかり毎回のトレーニングでエネルギーを消費できていれば、ジムに行った意味はあったはず。なのに、人は目に見えるものや耳に聞こえるもの、体に感じられるものに、“結果”という基準を作ってしまうから、“程よい”というのが難しいんですよ。

──それを米倉さん自ら実践したのが今作。

米倉:そうですね。だから、今作の曲作りにしても歌詞にしても、“着地してない”というのはそういうことなんです。アルバムタイトルもそうです。急に“そういえば僕、象が好きだったな”と思って。だけど、象ってあまりにもリアルすぎるので色付けしたらどうなるんだろうと考えたとき、“ピンクっていいな”と思って。ホント、そんな感じで深い理由はないんですよ(笑)。

──それで象をピンクにしてみた、と。

米倉:前作『analog』が、様々なことがデジタル化された今だからこそ、アナログなものを大切にしようというコンセプトだったので、今回は敢えてナチュラルではない色、色付け、ピンクにするのはどうなんだろうと思ったんです。そして僕たちって、“現実”に生きていられるのは“夢”や“目標”があるからで。リアルな象と非現実的なピンク色に染められた象、それを夢と現実に例えて、そうやって僕たちは生きてるんじゃないかな、というメッセージです。

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