クアトロでのワンマンショーを大成功させた鈴木友里絵、「今までの自分を超える」シーズン2へ

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レーベルにもマネジメント事務所にも所属しない、完全なインディペンデントアーティスト。鈴木友里絵の口から、26歳の誕生日に渋谷クラブクアトロでワンマンライブを開催する、と聞いたときは少し驚いたが、納得もした。彼女が卓越した行動力の持ち主であることを知っていたからだ。

◆<鈴木友里絵ワンマンショー『ON STAGE!』>画像

ミュージカルが好きで大学に新しいサークル「総合舞台芸術愛好会」を作り、相田みつを美術館に自ら働きかけてコンサートを開き、47都道府県ツアーをやろうとギターを背負って高速バスに乗り込む。ジャケットデザインも、カメラマンやバックバンド探しも、ファンクラブ「ゆりえ帝国」の管理も手作業だ。もちろんこのレポートも彼女の直接の依頼で書いている。そんな鈴木がもっと大きく成長するために、まず大きな器を決めてからそこを満たせる自分を作っていくという方法をとることには、むしろ納得感があった。とはいえ少し心配でもあった。なにしろ収容人数800の大バコである。

しかしながら開演時間を少し過ぎて、鈴木自らによる注意事項の影アナが流れるころにはまずまずフロアが埋まっていたから脱帽するほかない。暗転した会場に聞こえてきたのは、男性ふたりが職場の同僚を演じたボイスドラマ。仕事に向いていないと悩む後輩を元気づけようと先輩が連れてきたのが鈴木友里絵のライブ、という設定で、「僕には輝ける場所なんてないんです」「おまえの悩みはきっとこのライブが解決してくれるさ。じゃ、俺は前に行くから、後でな!」「せんぱーい!」のユーモラスな会話に続き、鈴木のアナウンスが流れた。「レディース・アンド・ジェントルメン、ようこそ<鈴木友里絵ワンマンショー『ON STAGE!』>へ。今宵は日常を忘れ、世相を忘れて、みなさんを素敵な音楽の世界へお連れいたしましょう。準備はいいですか? イッツ・ショータイム!」



ステージにはマジシャンっぽくシルクハットを被った鈴木(鍵盤柄のスカートがかわいい)とバンドが入場、「君と同じ季節の下」でショーの幕を開ける。モータウン風のビートに自然と起こる手拍子。そのままハードロック調の「ヒーロー」を続けてつかみはバッチリ。ここで最初のMCタイムとなり、鈴木が公演のコンセプトを説明した。

「『ON STAGE』は“上演中”“舞台上の”という意味です。ステージの上はとっても自由な世界。どこにでも行けるし、誰にでもなれちゃいます。今夜も非日常なことが起こるかもしれません。例えばこんなこともできちゃいます!」と言って呼び込むと、仮面をつけた執事風のコスプレの男性がギターを持って登場。「普通のライブでは仮面を被った男の方はあまり来ないと思うんですけど、『ON STAGE』ではわたしのイマジネーションがかかるので、何でも可能なんです。自由なのはステージ上だけではありません。みなさんも、ここでは何を感じてもいいし、どんな楽しみ方をしてもいいのです。でもたったひとつだけルールがあります。それは、この時間をめいっぱい楽しむことです!」


拍手に導かれて「SCRAMBLE」を演奏し終わると、ステージに女性のダンサーが現れ、クルマに乗り込むマイムを披露。それをイントロに「助手席」、さらに「江ノ島ハナビ」とファンキーな曲の連打だ。そこへ再び執事が現れる。「鈴木友里絵ワンマンショーのキャスト面接に来たという方がお見えですが、お通ししてもよろしいでしょうか? それが、黒いスーツに黒い髪で、まるで個性なんてないような子たちで」。リクルートスーツ姿の女性ふたりが現れ、女主人(?)の鈴木が「そうね。でもわたし、この黒いスーツの中に個性が見える気がする。ふたりの個性、見せてもらおうじゃないの」と「髪を黒く染めました」を歌い始めると、ふたりは激しいダンスを披露。《好きなこと君のままでやんなよ》《誰にも出せない色さ 自分らしい色》というメッセージを視覚化してみせた。



いったんバンドが引っ込み、鈴木の妹のさなえまん(お姉ちゃんにそっくり)が純白の衣装で登場。ピアノソロに乗って表情豊かに踊る。そこへ姉が黒いドレス姿で再登場し(レースのボレロにビーズがキラキラ)、切々と「ねぇ、ママ」を歌い出す。《私はあなたの理想の子供にはなれない》《でも聞いて/私は自分の道を生きてる》という歌詞が、厳しい母親の教えに逆らって芸事を追求する姉妹の思いを映しているようだった。

美しいものに目が眩んで見失っていた《本当のあたし》に再会する「MIRAGE」、恋によって生まれた脆さを振り切ろうとする「あなたのせいで、」、そんな意地っ張りの女性に男性から語りかける「シェルター」と切ない歌を続けてしんみりしたフロアに、BUMP OF CHICKENを思わせるロックナンバー「君の話をしよう」、2016年の学生チャリティー駅伝大会の応援歌「Runner」をドロップ。ムードを快活に一変させた。




再びお色直しして「ここから後半戦です!」。3着目の衣装はバックリボンがアクセントになった赤いサテン地のドレスだ。再び現れたさっきの女子ふたりも、赤スカートに白ブラウス(+赤リボン)の鮮やかさ。彼女たちのダンスを従えて、ボ・ディドリー・ビート(3-2のクラーベ)に乗せたメイクアップ賛歌「変身するの」、ソウルフルなシャッフルに乗って安穏な幸せの大切さを訴える「あたりまえの日々」、恋する多幸感を《モノクロの毎日が 12色の笑顔で色付いてゆく》と喩える「COLORS」をたたみかける。「COLORS」では観客の“ラーラーラー”をバックにサビを歌い、盛り上がりも最高潮に。「次の曲で最後になります」のMCに、フロアからは「え~」の声が湧き上がった。

「過去を悔やんでしまうこともすごくいっぱいありますけど、自分の人生はもうスタートしていて、失敗すら自分の一部だなって思うんです。『ON STAGE』、上演中っていうタイトルには、わたし自身が全力でいまを生きているって意味を込めました。みなさんも自分の“ON STAGE”を精いっぱい生きてほしい。そんな思いも込めて、最後は自分の夢を歌います」と「star」。《誰かの泣き顔までも 照らして輝く星になりたい》の一節に彼女の理想が詰まっている。


アンコールを求めるフロアに再びボイスドラマが流れる。「いまはわからなくても、いつか必ずスポットライトが当たり、輝く瞬間がある。それこそがおまえの“ON STAGE”だ」という先輩のセリフは、鈴木が自分自身に語りかけているように僕には聞こえた。そして再びスポットライトを浴び、彼女は語り始めた。

「クラブクアトロでは19歳のときにオーディションで少しだけ歌ったことがあるんです。楽しかったけど、今度ここに立つときは自分でたくさんの人を集めて自分のステージをやりたいって強く思いました。それから約7年越しでひとつ夢が叶いました。夢をまっすぐ信じていた19歳の自分に、いまの26歳の自分から“信じてて大丈夫だよ”って証明してあげたくて、今日まで準備してきました。ひとつ目標を超えたので、また上の目標をどんどん超えていきたいなと思ってます。今後とも応援よろしくお願いします!」

新しい目標として、まずは夏に新しいCDを発売することを発表。「いままでの自分を超えられる音源を作りたい。これからの鈴木友里絵を楽しみにしてください!」と胸を張り、ギターの弾き語りで「ぎゅってしよ」を披露。バンドメンバーとキャスト全員を呼び込むと、妹の沙菜絵はファンクラブの会員(呼称は“民=たみ”)から贈られたという生肉の塊をかたどったケーキを手に登場し、「ハッピーバースデー」を全員で合唱。最後は代表曲といえる「セカイイチ」を歌い、何度も何度も「ありがとうございました!」と言いながら鈴木友里絵はステージを後にした。



昨年から鈴木は“ワンマンショー”と銘打ち、演出をふんだんに盛り込んだストーリーに沿って歌を届ける試みをしている。ミュージカル好きに加え、2年前に見た吉澤嘉代子のコンサートの影響もあるという。今回は多くの出演者を得て、準備も万端、スケールアップしたショーを見せてくれた。バックバンドはプロのミュージシャンだが、キャストは全員サークルの後輩たちで、衣装や会場の装飾も彼ら/彼女たち。たびたび出演している江東区のレインボータウンFMのスタッフも裏方として支えてくれたそうだ。

最後のMCで「楽しかったです! みなさんもお家に帰って2日ぐらいはこの余韻に浸っていただけるとうれしいです」と笑っていたが、この発言は鈴木友里絵という人を象徴している。“自分ごと”に他人を引き込んでしまうのだ。その源泉は持ち前の笑顔であり、明るさであり、行動力であり、願う心の強さである。もちろん願いは簡単には叶わない。それでもあきらめずに願う心がエネルギーとなり、言葉や行動を生み出す。表現に力を与え、人々を感動させ「応援したい」という気持ちを引き起こすのは、才能や技術に加え、願う心の強さをいかに表現できるかだと僕は思っている。

彼女はワンマンライブの直後にニューヨークへひとり旅に出かけた。「鈴木友里絵シーズン1が終わって、帰国してからがシーズン2、みたいなイメージです。ドラマって旅から帰ってきて始まるのが多いじゃないですか(笑)。ストリートライブもやりたいんですけど、ギターを持っていくと大変だから、向こうで買おうかな」。英語は苦手だそうだが、問題なく友達をたくさん作れそうだし、ニューヨークでの経験を肥やしにした“鈴木友里絵シーズン2”も楽しませてくれるだろう。


文◎高岡洋詞
写真◎スエヨシリョウタ ノビス内藤

■<鈴木友里絵ワンマンショー『ON STAGE!』>セットリスト

2019年2月12日(火)東京・SHIBUYA CLUB QUATTRO
1. 君と同じ季節の下
2. ヒーロー
3. SCRAMBLE
4. 助手席
5. 江ノ島ハナビ
6. 髪を黒く染めました
7. ねぇ、ママ
8. MIRAGE
9. あなたのせいで、
10. シェルター
11. 君の話をしよう
12. Runner
13. 変身するの
14. あたりまえの日々
15. COLORS
16. star

En1. ぎゅってしよ
En2. セカイイチ

全曲作詞作曲:鈴木友里絵

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