【インタビュー】小曽根真、「二つの人間の魂が出会って音楽という言語で会話をするんだからそこにはJOYしかないんです」
20年越しの夢が、ついに叶う時が来た。チック・コリアと小曽根真、アコースティック・ピアノ2台で挑むジャパン・ツアー。説明不要、ジャズ/フュージョンの世界史に名を刻むヴァーチュオーゾと、日本が誇る情熱のマエストロ。1982年、バークリー音楽院の学生だった小曽根とチックとの邂逅から、1996年の日本での初共演、そして2002年には小曽根のアルバム『トレジャー』にチックが参加するなど、長くあたためてきた二人の交流の到達点であり、新たな始まり。ツアー前の4月20日には、未発表曲も含め二人の共演曲をまとめたアルバム『Chick&Makoto-Duets-』もリリースされる。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス。ジャンルを超えたすべての音楽ファンの胸を熱く揺さぶるであろう共演について、そして自身の意外な履歴や音楽指向について、小曽根真がたっぷりと語ってくれた。
◆小曽根真~画像~
■キース・エマーソンもリック・ウェイクマンもジョン・ロードも好きやった
■「ハイウェイ・スター」をトリオでやったこともありますよ
小曽根真(以下、小曽根):(編集Mの着ているキース・エマーソンのTシャツを見て)そのTシャツ、いいですね~。僕、ELPが日本に来た時に、甲子園球場に行ったんですよ。小学校6年生の時。
――おおっ、そうだったんですか!
小曽根:そしたら途中でファンがウワーッと騒いで、柵を超えてステージに押し寄せて、中止になった。僕、そこにいたんですよ。「おまえらのせいで最後まで聴けなかったやないか!」と思いながら。
――1972年。伝説のライブですね。
小曽根:ELPは大好きで、レコードはよく聴いてました。余談になっちゃうけど、ELPの「タルカス」という曲をバンドでやったんですよ。僕はもともとオルガニストなので、うちにハモンドB-3があったから、レコードを聴いてコピーした。ところがうちのレコード・プレイヤーの回転数がおかしくて、僕がコピーした演奏が全部半音上だったんですよ。「おまえ、どこのキーでやってんねん」と言われて、もう一回半音下で覚え直した(笑)。<8.8 Rockday>のステージだったかな。
――<8.8 Rockday>! それも伝説のイベントですね。
小曽根:高校生の頃にそこに出たら、意地の悪い審査員がいて、「このバンドはプロがおるからアカンな」とか言われて。一応、僕はお金もらって仕事してたから。「バイトですよ!」って言い返したんだけど、「君はもうプロや。君を勝たせるわけにはいかん」とか言われて、めっちゃ気ぃ悪かった(笑)。そんなわけで、プログレはめっちゃ大好きで、未だに実は、オッサン集めてプログレバンドを作りたいんですよ。
――それ聴きたいです!
小曽根:キース・エマーソンも好きやったし、リック・ウェイクマンも好きやった。ディープ・パープルのジョン・ロードも。「ハイウェイ・スター」をトリオでやったこともありますよ。ムーグは高くて買えなかったから、ローランドのシンセでギターみたいな音を出して。こっちにB-3、その上にローランド、横にRhodesとグランドピアノを置いて。途中でベースのアンプが飛んだから、「弾いたフリしとけ!」って言って、B-3のペダルでベースを出した(笑)。あの時は音楽の先生と大喧嘩したな。「何や、こんなん持ってきて」「何がアカンねん」って。ひどいガキやったです。……すみません、チック・コリアの話と全然違う(笑)。
――いやいや! 小曽根さんのロック話って、ほかで聞いたことないから、ものすごく面白いです。小曽根さんと言えばやっぱり、世間的にはジャズの人ですから。こんなお話が聞けるとは。
小曽根:ロックはめっちゃ好きですよ。ただ、ビートルズを好きになるほうが、逆に遅かったんです。歌ものにあんまり興味がなくて、やっぱりインスト系で、ジェフ・ベックも大好きやった。あのへんは総なめしていましたよ。ELPの『展覧会の絵』も、発表会でやったりしましたし。
――これは“もしも”ですけど、もしかすると、ロックバンドの方向に行く可能性もあったんですか。小曽根真の音楽人生として。
小曽根:あったあった。もしそういうチャンスがもらえるなら、未だに可能性はあると思いますよ。大きい音を出すのは嫌いじゃないんで。実は10年ぐらい前に、山岸潤史さんと、ドラムのジェームス・ギャドソンと3人で、六本木ピットインでやったんですよ。そしたら山岸さん、あの狭いところにマーシャルのアンプ2台持ってきて、ほんなら俺もって、B-3とレスリー(スピーカー)2台持って行って。めっちゃおもろかったですよ。終わったら耳がキーンとして、何も聴こえへん(笑)。
――ムチャクチャしますね(笑)。最高です!
小曽根:渡辺香津美さんとか、(村上)ポンタさんもわざわざ聴きに来てくれた。めっちゃ楽しかったな。この間、ニューオリンズで潤史さんに会ったから、「またやりましょう!」という話をしたんですけどね。レスリーの音が歪むところまでボリュームを上げて、そのへんのロック・ミュージシャンには負けないと思いますよ。そういうパワーのあるロック、大好きなんです。でもそれをパワーだけでやるんじゃなくて、ちゃんとそこに音楽があるのが絶対で。キース・エマーソンもそうだったし、昔のロック・ミュージシャンはみんなそうでしたよね。そういうのは、チャンスがあったらやりたいですね。
――それはある意味、今度共演するチック・コリアとのコラボレーションとは、真逆のアプローチですよね。アコースティック・ピアノのデュオですから。
小曽根:そうですね。でもチックも、ロックまでは行かないけれど、エレクトリック・バンドをやっていますから。この前、チックの家に行ってリハーサルしてきたんですけど、ヤマハのMOTIFがあって、RhodesじゃないけどRhodesみたいなちっちゃいキーボードがあって、ミニ・ムーグがあって。練習が終わった後セッションになって、奥さん(ゲイル・モラン・コリア)が「Someday My Prince Will Come」を歌いたいというから、二人でやったんですよ。僕はピアノで、チックはムーグをバンバン弾いてたな。
――僕らの世代にとって、チック・コリアはフュージョンの大スターです。リターン・トゥ・フォーエヴァーですよ。
小曽根:そうですよね。でも僕は逆に、その時代のチックの音楽がピンとこなかったんです。僕はELP、イエス、レインボーとかを聴いてたわけですから、洗練されすぎていて、難しかったんですね。もっとベタベタのほうが、僕は好きなんです。それと、生きてるパワー全開!みたいなものが好きなんですね。一つ間違うと、刹那的な解釈にもとられるんですけど、特に若い頃は「そんな難しいことを言わんと今この瞬間を思い切り楽しみたい」という気持ちがあるから、イエーイ!ってなるじゃないですか。だから今、僕は国立(くにたち)音大で教えてるんですけど、一回目の授業ではデキシーランド・ジャズをやらせるんですよ。デキシーランドは“♪ブンチャカブンチャカ”って、スウィングの基本形の、2ビートなんですね。それは底抜けに楽しい音楽で、そうならないとデキシーとは言えない。そこで“デキシーというスタイル”を演奏しようとすると、カミナリを落とす。「おまえら、生きてるってことをなめてるやろ」「おまえらの生きてるエネルギーって、こんなもんか?」って、子供らには言うんです。「弁償してやるから、ドラム壊すぐらい叩いてごらん。そんな力ないやろ」って言うと、必死になって叩く。ドラムがデカくなると、それに合わせた音をみんなが出し始める。そうすると、大音量で生楽器を演奏する楽しさ、開放感をみんな覚えるんですね。
――はい。なるほど。
小曽根:まずは大フォルテでやってみて、自分のMAXのエネルギーを知らなきゃいけない。車で言うと最高出力をまず出して、それを今度は上手にコントロールして抑えていく。そう言うと、子供たちはすごく納得してくれる。そして、たとえば自分に200Wの音量があるとして、ピアニッシモに持って行く時に、200Wと同じエネルギーをピアニッシモで出さなきゃいけない。エネルギーは変わらないんです。これは、ジョー・サンプル(*クルセイダーズなどで活躍したピアニスト)に教わったことです。「フォルテッシモとピアニッシモは、同じエネルギーだ」と。
――金言ですね。
小曽根:子供たちは、ピアニッシモになると、省エネになっちゃう。それを「ガーン!と出した時と同じエネルギ―だ」と言うと、みんな覚えてくれるので。僕がプログレに惹かれたのも、そこで放出されるエネルギーに、ものすごくピュアなものを感じたからでしょうね。
――そういう意味で言うと、鍵盤楽器は、特にアコースティック・ピアノは、エネルギーを出しやすい楽器じゃないですか。ピアニッシモからフォルテッシモまで。
小曽根:そのはずです。でもピアノはみんな、なかなか大音量では鳴らさないですよね。実はサウンド・エンジニアから言わせると、ピアノがそれだけのダイナミクスを持って弾いてくれるほうが、楽なんです。PAが楽になる。ピアノ自体が鳴ってないのに、PAでああしてくれこうしてくれと言われるのが一番困ると、そう言っていました。
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