【インタビュー】B'zの松本孝弘、『enigma』完成で「音楽創りがまた面白くなってきた」

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『enigma』はマグマのような熱量と流動性を持った作品だ。松本孝弘が音楽を生み出しているというよりも、音楽の持つ大きなエネルギーに彼自身が身を預け、流れ向かう未だ見ぬ新天地へ彼自身が駆り立てられているかのようにも見える。

◆松本孝弘 画像

松本孝弘の音楽にかける情熱は、作品を追うごとに熱量を増している。2016年2月、ロサンゼルス現地でWOWOWの第58回グラミー生中継番組に出演を果たした彼は、番組内でグラミー賞を受賞(ラリー・カールトンと共に発表したアルバム『TAKE YOUR PICK』で「2011年第53回グラミー賞最優秀ポップ・インストゥルメンタル・アルバム」を受賞)したことで「燃え尽きるかと思っていたんですが、人間って欲深いもので、さらにさらに高みをと思いました」と語っていたのも、松本孝弘という音楽家のコンディションが極めてピュアに研ぎ澄まされてきたことを言い表している。

栄えあるグラミー賞に輝く作品を礎に、『Strings Of My Soul』『New Horizon』と創作意欲にあふれたインスト作品をコンスタントに生み出し、数々の新境地を見せてきた松本孝弘だが、ジャジーでメロウな作風に寄っていた前作『New Horizon』から、『enigma』は、さらにもう一つ上位レイヤーに押し上げられ、簡素な言葉では形容できない作品となって世に誕生した。メロウでハード、ヘヴィーながら軽やか、繊細で大胆。つまりは『enigma』は、“ギターとともに生きる男の人生の機微の物語”である。

取材・文◎BARKS編集長 烏丸哲也

■テーマに向かって曲創りをするのは好き
■B'zのときも同じですね

──BARKSの烏丸です。よろしくお願いいたします。

Tak Matsumoto:お久しぶりですね、元気ですか?

──元気です。『enigma』は大作になりましたね。

Tak Matsumoto:実際のレコーディング期間は短かったみたいなんですけども、僕自身はすごく長い間やっているようなイメージがありましたね。1曲目の「enigma」という曲を一番最初にレコーディングしたんです。

──え? これが一番最初だったんですか? 意外です。

Tak Matsumoto:これが最初でした。B'zの長いツアー中だったのでこの先どういうふうな作品にしていくのか、旅先でずっと考えていたのをよく覚えています。

──てっきりアルバムの最初と最後を締める作品として、「enigma」は最後に創られた曲だと思っていました。

Tak Matsumoto:いや、これが一番最初だったんですよね。これができたときは1曲目にくるとは全然わからなかったけど。

──作品創りへの欲求は随分高まっていたようですね。

Tak Matsumoto:そうですね。昨年はB'zのアルバムを出してツアーも精力的にやりましたし、年々音楽創りがまた面白くなってきましたよね。

──それは素晴らしい。30年を超えるギタリスト人生の中では、メンタルの上がり下がりも色々あったということですか?

Tak Matsumoto:きっとあったと思います。振り返ってみると、今までずっと休まずに何か創ってましたけど、でも…きっとあったと思う。

──順風満帆のキャリアに見えますが、水面下ではいろんな思いも交錯していたんでしょうか。

Tak Matsumoto:まぁ、いろんなときがありましたよね。調子に乗って練習しないときもあったし…。

──それは逆に、“今では日々の切磋琢磨が大事と思う”ということですか?

Tak Matsumoto:今となっては…そういうふうに思うけども、でも、そういう頃の演奏も決して悪くはないんです。良くも悪くも調子に乗っているというか、勢いだけはすごいから。

──なるほど、その輝きはまたひとつの宝でもありますね。

Tak Matsumoto:それは、そのときにしかできないプレイだと思いますから。

──でもそれが、いつまでもは続かないということ?

Tak Matsumoto:いずれ来るんですよね、きっと。あんまり良く覚えてはいないけど、今思い出す限りでは、作品創りよりもライブだと思います。実際ライブをやってて“俺ダメだ、これ”って思っていたときがあった気がする。もうちょっと真剣にライブに臨まなきゃいけないなって時があったんですよね。

──手を抜いているわけでもないだろうに、それはどういう心境なのでしょう。ライブを観てきた身としても“手を抜いてライブしている”と感じたことは一度もありませんけど……。

Tak Matsumoto:もちろんいつも全力でやっているんですけど、“もうちょっと練習をしてからやれよ”って感じながら演っていたときもあった。やればもっと良くなるのにって。

──なかなか厳しいですね。

Tak Matsumoto:うーん、わかんない。でもそう感じたときがあって改心しました。

──なるほど、それが今の作品にもつながっているのか……。

Tak Matsumoto:そうですね。

──「enigma」から始まるアルバムですが、いろんなテーマソングとなった曲が要所要所に入ることで、アルバムの流れのいいフックになっていますね。

Tak Matsumoto:タイアップって、僕はすごく大好き。そういうお題目をもらうと俄然燃えるんですよね。もちろんタイアップしてくれる側は番組との兼ね合いでいい作品を望むだろうけど、僕自身は自分のアルバム制作の中にいるから、そのアルバムに活かせるようにしたいという気持ちがありますよね。

──なるほど。

Tak Matsumoto:だから、そういうサブジェクトをもらうことが楽しみになるんです。必要なテーマに向かって曲創りをするのは好きですね。B'zのときも同じ。

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