【インタビュー】鬼才デヴィン・タウンゼンド「そんな自由さが、音楽的なフリーダムを与えてくれるんだよ」
ハード・ロック/ヘヴィ・メタル界が誇る異才デヴィン・タウンゼンドが『Z2(Zスクエアード)』『カジュアルティーズ・オブ・クール』という2タイトルを発表した。
◆デヴィン・タウンゼンド画像
『Z2』はジルトイド『ダーク・マターズ』とデヴィン・タウンゼンド・プロジェクト『スカイ・ブルー』という2枚の独立したアルバムをカップリング、さらに日本盤のみ2013年の『ラウド・パーク』フェスティバルでのライブを完全収録したDVD『ライブ・アット・ラウドパーク13』を加えた3枚組だ。そして女性シンガーのチェ・エイミー・ドーヴァルを迎えたカジュアルティーズ・オブ・クール名義での『カジュアルティーズ・オブ・クール』は2枚組。トータル5枚同時リリースという多作ぶりには、驚かされる。
さらに驚きなのは、シアトリカルなSFスペース・コメディ『ダーク・マターズ』とヘヴィでプログレッシヴな『スカイ・ブルー』、そしてカントリー/フォーク・ロック色のある『カジュアルティーズ・オブ・クール』と、それぞれまったく異なった音楽スタイルで彩られながら、いずれもデヴィンの無二の個性が貫かれた、しかも高レベルのアルバムに仕上がっていることだ。
発売元のワードレコーズには「傑作!」「この2作品を聴いて内容に異を唱える音楽ファンはいないのでは?」などの反響が寄せられている。
それぞれの作品について、デヴィンに話を聞いた。
──『Z2』がジルトイド『ダーク・マターズ』とデヴィン・タウンゼンド・プロジェクト『スカイ・ブルー』という2枚の異なったアルバムの2部構成となった事情について教えて下さい。
デヴィン・タウンゼンド:元々『ダーク・マターズ』を単体で出すつもりだったんだ。でもクレイジーなパペットが主人公のアルバムよりも、“普通の”ロック・アルバムを作った方がいいと、マネージャーやレコード会社から提案された。ここ数年、複雑な構成のイカレた音楽のアルバムを作ってきたから、警戒されていたのかも知れないな(苦笑)。俺はジルトイドにも愛着があったし、“普通の”曲も書きためていたから、だったら両方のスタイルで2枚組にしようと思い立ったんだ。さらに日本盤にはDVD『ライブ・アット・ラウドパーク13』も付いている。3つの作品を一度に楽しめるんだ。
──ジルトイドをテーマにした作品は『ジルトイド・ジ・オムニシェント』(2007)以来ですが、その頃から続編を作ることを考えていたのですか?
デヴィン・タウンゼンド:いや、全然考えていなかった。でも今回、エンタテインメントとしてのヘヴィ・ミュージックを追求した作品を作るにあたって、ジルトイドを再び登場させるのが最も効果的だと思ったんだ。俺はヘヴィな音楽をやってきて、多くのファンはその時期から付いてきてくれた。でも最近の俺のアルバムは、彼らが理屈抜きで楽しめるようなものではなかった。『ゴースト』『デヴラブ』『ザ・ハマー』とかね。その反動として、娯楽性の高い作品を作ろうとしたんだ。それでジルトイドを復活させることにした。『ジルトイド・ジ・オムニシェント』を発表した後、ジルトイドというキャラクターは自分勝手に動き出すようになった。ファンが手製のパペットを作ったり、刺青を入れたり、ポピュラーな存在になったんだ。それで“ジルトイド・サーガ”第2作として『ダーク・マターズ』を作ることにしたわけだ。
──前作と『ダーク・マターズ』はジルトイドというコンセプトで繋がれていますが、音楽面でも連続性はあるのでしょうか?
デヴィン・タウンゼンド:音楽面で共通しているのは、どちらも複雑でアブストラクトなところかな。前作と同じリフやモチーフを使ってはいない。“ジルトイド愛のテーマ”というようなものはないよ。音楽的にはどちらの作品も自由なんだ。SFはカラフルだし、オープンなものだから、少々破綻があっても問題はない。コーヒーが大好きな宇宙人のパペットが暴れる話なんだから、細かいことを気にしてはいけないだろ?そんな自由さが、俺に音楽的なフリーダムを与えてくれるんだよ。
──ウェブの『ZTV』で“ジルトイド・サーガ”の外伝的なエピソードを見ることが出来ますが、前作と新作をリンクさせる作品ですか?
デヴィン・タウンゼンド:いや、そこまで深く考えていないんだ。ただ、ジルトイドの世界観を知ってもらうのに向いているんじゃないかな。ウェブで『ZTV』を見て、興味を持ってアルバムを聴く人がいたら嬉しいね。
──今後“ジルトイド・サーガ”は続くでしょうか?
デヴィン・タウンゼンド:判らないな。いちおうストーリーは簡潔しているけど…当初はこのアルバムだって作るつもりがなかったけど、いろんな実験をしていくうちに、そうするのが自然な流れになったんだ。俺の作る音楽がそれを求めるならば、ジルトイドはきっと戻ってくるだろうな。
──『スカイ・ブルー』はどんなアルバムだといえるでしょうか?
デヴィン・タウンゼンド:『ダーク・マターズ』とのカップリングになることは決まっていたし、書きためた曲のストックはたくさんあったから、それを流用すればいいと気軽に考えていた。でも実際、聴き返してみると思ったより未完成だったし、どうもしっくり来なくて、ほとんど最初から書き直すことになった。『ダーク・マターズ』と『スカイ・ブルー』は、俺というミュージシャンの持つ二面性の縮図なんだ。ジルトイドが虚構を象徴するとしたら、『スカイ・ブルー』は俺が長年のツアーを経て蓄積させてきた現実性を象徴している。また、ジルトイドが俺の内面の幼児性を描いた作品だとすれば、『スカイ・ブルー』は大人の視点から見た作品だ。『スカイ・ブルー』の多くの曲は“死”を描いていたり、直接描いてなくともイメージさせるものだ。実生活で友人のお母さんが突然亡くなったり、15年間飼っていた猫が野生のコヨーテか何かに食べられてしまったり、気が滅入ることが多かった。それで重い気持ちで作ることになったんだ。
──『スカイ・ブルー』はヘヴィでメタリックでありながら、プログレッシヴ・ロック的なアプローチも聴かれますね。
デヴィン・タウンゼンド:うーん、そうかな?自分の音楽がプログレッシヴ・ロックかどうかなんて、考えることはないよ。どんなジャンルに属するかは、他人が決めることだ。『スカイ・ブルー』はデヴィン・タウンゼンドというミュージシャンの内的宇宙の扉を開けて、中を見せたものなんだ。ヘヴィでダークで奥行きのあるアルバムになっているよ。
──DVD『ライブ・アット・ラウドパーク13』に収められたライブについて、どんなことを覚えていますか?
デヴィン・タウンゼンド:14年ぶりに日本のステージに立ったから、特別な感慨があったね。日本のオーディエンスからは、他の国にはない独特の雰囲気とエネルギーを感じるんだ。<ラウド・パーク13>でのライブは、ツアーが始まってしばらくしてからのものだったし、精神的にリラックスした状態でやれたよ。ワールド・ツアー全公演でも屈指の良いライブだった。
──日本では同日発売となる『カジュアルティーズ・オブ・クール』は、どのような性質のアルバムでしょうか?
デヴィン・タウンゼンド:『カジュアルティーズ・オブ・クール』は2010年ぐらいから曲を書き始めたプロジェクトなんだ。このアルバムはレコード会社と契約を交わさず、クラウド・ファンディング・サイト『プレッジミュージック』でファンから制作費を募ってリリースした。他のプロジェクトを挟みながら、少しずつ作っていたから、完成まで4年かかってしまったんだ。でもレコード会社を介さずに作ったから、自由に音楽を発展させることが出来た。
──『カジュアルティーズ・オブ・クール』の音楽性について教えて下さい。
デヴィン・タウンゼンド:1970年代のAMラジオから流れているような音楽をイメージしたんだ。当時、寝る前にラジオをかけていると、決して劇的な展開はないけど、聴いていて心地よい曲が多かった。エディ・ラビットとか、いろんなカントリー・ロックとかね。音のダイナミクスの幅はさほど広くないけど、チェ・エイミー・ドーヴァルのボーカルが素晴らしいんだ。楽なプロジェクトじゃないし、忙しくて何度も作業がストップしたけど、自分にとって思い入れのあるアルバムだよ。これほど自分と密接な作品は、『オーシャン・マシーン』以来かも知れない。自分にとって重要なプロジェクトだし、次のアルバムを作ることも考えているんだ。ここ7年のあいだに26枚のアルバムを出してきて、正直リリースが多すぎかな?とも思っている。ファンにとっても、じっくり聴き込む前に次のアルバムが出てしまって、食傷気味じゃないかって心配になったりもするんだ。ただ、曲はこれからも書き続けるし、レコーディングも続けるよ。それが俺、デヴィン・タウンゼンドなんだからね。
インタビュー・文:山崎智之
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