【インタビュー】fhana「ゆくゆくは日本の音楽だとか文化の歴史の中で欠かせない一要素になりたい」

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“ネット3世代”のサウンド・プロデューサー3人と、紅一点のボーカル・towanaによる4人組fhana(ファナ)。2013年のメジャーデビュー以降、発表してきたシングル4枚は全てTVアニメのタイアップを獲得し、一躍アニソンシーンで頭角を現す彼らが、BARKSに初登場。バンドサウンドの臨場感とDTMミュージックの構成美を併せ持ち、自由なスタイルで闊歩する彼らの魅力は、ズバリ“泣ける曲”だ。叙情的メロディで心の琴線をくすぐり、緻密なサウンドでファンタジックな物語を囁く彼らの声に、さぁ、耳を傾けてみよう。

■お題があったほうが自分たちだけで生み出すより幅を広げられる
■作品世界との相乗効果で力が発揮できる気がしているんです


――デビュー以来、全てのシングルがアニメタイアップになっているfhanaですが、最初からアニソンをやれるバンドを目指していたんでしょうか?

佐藤純一(Key&Cho/以下 佐藤):そういうわけではないんです。結成時のメンバーは男3人だけで、たまたま共通項として全員がアニメ好きというのがあったので「いつかやれたらいいね」とは話してましたけど、特にそれを意図して作ったバンドではないですね。

kevin mitsunaga(PC&Sampler/以下 kevin):佐藤さんに関しては、ちょっと複雑な経緯もありますもんね。

――複雑な経緯とは?

佐藤:実は、fhanaの前にFLEETっていうバンドで一度メジャーデビューしてるんですけど、デビュー作が深夜アニメのエンディング曲で。当時、いわゆるロキノン系なバンドをやりたかった僕としては、正直“アニソンかぁ…”っていう想いもあったんです。アニメは子供の頃『ふしぎの海のナディア』が好きだったり、ジブリ作品や『AKIRA』の大友克洋さんや『機動警察パトレイバー』の押井守さんも好きでしたし、『新世紀エヴァンゲリオン』もリアルタイムでハマってたので素養はあったんだと思いますが(笑)、デビュー当時は『萌え』や『美少女』が登場するような、現在の深夜アニメ的なものに対する理解が薄かったんですよ。でも、ちょうどその頃『涼宮ハルヒの憂鬱』のテレビ放送が始まって、レコード会社の担当の方がいろいろ教えてくれて。後から気になって観てみたら超感動したんです! こんなに面白いものがあるのか!? と、劇場版に到っては6回も観に行きましたからね。そこから他の深夜アニメも観始めて、バーッ! と世界が開けていき。ボーカロイドとかにも興味を持つようになって、そのシーンで活動していたyuxuki(waga)くんとTwitter経由で知り合ったんです。

yuxuki waga(G/以下 yuxuki):もともとFLEETは一ファンとして好きで聴いてましたし、佐藤さんとは音楽の趣味がすごく合うんですよ。例えばマイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)とかも好きだし、エモい曲がお互い好だったり。他にも世代が上の佐藤さんからは昔の良き音楽をいろいろ教えてもらいました。

佐藤:YMOとか渋谷系とか、90年代になるとオルタナティヴロック的なものを聴いてました。ところで、僕ら、いわゆるネット3世代なんですよ。

――ネット3世代?

佐藤:ニコニコ動画やMyspaceがまだ無い時代に、自分のHPに曲をアップしていた僕、ボカロ曲を作ってニコニコ動画に投稿していたyuxukiくん。さらにkevinくんは時代が下って、ネットレーベルというシーンでエレクトロニカユニットをやっていた人なんです。

kevin:僕が電子音楽というものに入ったキッカケが、高校時代に聴いたコーネリアスさんの『SENSUOUS』というアルバムで。そこから小山田(圭吾)さんが過去にやってたフリッパーズ・ギターに遡って、初めて渋谷系を認識した流れなんです。

yuxuki:だから同じ渋谷系の入口でも、佐藤さんはフリッパーズ・ギター、僕はシンバルズ、kevinくんは近年のコーネリアスっていう分かれ方なんです(笑)。

佐藤:そうやって世代の違う3人でバンドをやるのも面白いんじゃないか?と思って会ってみたら、全員アニメやゲームが好きで意気投合して! しかも、みんなゲーム原作のアニメ『CLANNAD』が好きで、そこからfhanaっていうバンド名も付けたんです。『CLANNAD』というタイトルはゲール語が由来だという説があるんですけど、fhanaもゲール語で“坂”という意味なんですよね。で、『CLANNAD』もそうですが、ノベルゲームだとかライトノベルって、ヒロインが複数出てくるから、じゃあ、fhanaもゲストボーカル制にしようと。

――要するにボーカル=ヒロインってことですね。

佐藤:そうです、そうです。それぞれのヒロインごとにエンディングがある、マルチエンディングみたいなコンセプトでやっていこうと。そうやって自主制作したアルバムに、もともとyuxukiくんがやってた別のバンドで歌っていたtowanaにもゲストボーカルとして参加してもらったら、すごく歌や雰囲気がハマッてて。これは正式メンバーになってほしいな……と、全部のエンディングをクリアすると初めて開けるトゥルールート、つまりはメインヒロインという形で後に加入してもらったんです。

towana(Vo):fhanaの楽曲は完成度が高いから、それまで素人同然だった私が歌わせてもらえるなんて!と、ゲストボーカルが決まったときはすごく嬉しかったです。ただ、そこからは自然な流れで馴染んでいったというか。彼ら3人が意気投合したように、私も元から波長が合ってたんじゃないかと思うんです。聴いていた音楽は例えばYUKIさんとか、自分が歌える女性アーティストばかりだったので、3人とは全然違うんですけど(笑)。でも、私もアニメは好きです。『ARIA』とか。

kevin:僕も!

――じゃあ、自分たちの曲がテレビでアニメ映像と一緒に流れているのを観たときは、かなりの感動だったのでは?

towana:感動っていうか、信じられないっていうか。“流れてる!”って身体が強張っちゃいますね。それも毎回。

yuxuki:特にデビュー曲の「ケセラセラ」が、京都・南座でのアニメ『有頂天家族』の先行上映イベントで流れたときは、ちょっとウルウルしちゃいました。「アニソンができたらいいね」って言ってたのが、こんなに早く叶って、すごく嬉しい。

kevin:しかもアニソンをやるっていう夢だけじゃなく、僕にとっては“しっとりした曲でアニメのオープニングをやる”っていう夢も、4thシングルの「いつかの、いくつかのきみとのせかい」(今年4月発売)で叶ってしまったんですよ。

――かと思えば、3rdの「divine intervention」はアニメのオープニングにピッタリの勢いあるアッパーチューンだったり、さまざまな楽曲を発表してこられましたよね。そんな中で、fhanaとして譲れない音楽的テーマとは何でしょう?

yuxuki:泣ける曲を作ろう……ってことかなぁ? でも、それって意識してやっているというよりは、作ってると自然にそうなっていくんですよ。

佐藤:前のバンドのときはアーティストとしての自意識を重視していたというか、自分のやりたいことを大事にしていたけれど、今はもう少し職人っぽい感じでやっています。アニメのタイアップ曲って、事前に制作サイドからのオーダーがあったり、自分たちの完全オリジナルではなく、作品に寄り添いながらバンドの良さを出していく作業になるじゃないですか。それって大変そうだなぁと思っていたんですけど、やってみたら意外と楽しくて(笑)。それこそ「divine~」では、それまでのfhanaとは違うアニソンっぽい曲をガッチリ作ろう! っていうコンセプトが出てきたり、自分たちの中から出てくる発想だけよりも、むしろお題があったほうが幅を広げられる。作品世界との相乗効果で、より力が発揮できし、“自分たちらしさ”みたいなものはお題に沿って作ったとしても自然と滲み出てしまうものだと思うんですような気が今はしているんです。なので、曲のクオリティを上げるためにはとことん突き詰めますが、作曲においては良い意味でこだわりは無いです。

towana:何かしらお題があるからこそ、歌に関しても“こういう歌い方してみよう”とか、“こういう作品だから、こんな手法に挑戦してみよう”とかって、引き出しを増やせるんですよね。ボーカリストとして、そこは今後も頑張っていきたいところです。

yuxuki:それに自分たちが挑戦してみたい曲だとか、ちょっと変わったことはカップリング曲に盛り込んでいたりします。例えば「いつかの~」のカップリング「ARE YOU SLEEPING?」では、ギターを200本くらい重ねてシューゲイザーを目指したり、「divine~」収録の「innocent field」では80'sっぽい質感の曲を作ったり。お題があるときも無いときも、最終的にはfhanaらしくなりますね。

――ちなみに秋発売の5thシングル「星屑のインターリュード」も、TVアニメ『天体のメソッド』のエンディングテーマだとか。

佐藤:サウンドの質感的に、90年代っぽい曲を目指しました(笑)。楽曲に関しては、今後も普通に真面目に良いものを作り続けていきたいです。ただ、別の意味での目標を語るなら、バンドとしてもっと爆発的に大きな存在になりたいです。本当の大御所の方たちって、コンサートを観ていても器が違うんですよね。オーディエンスの気持ちを全部受け止めて、エネルギーを返している。それは凄いことだなぁと思いますし、そこを目指していくには音楽だけじゃなく、人間力的なものも含めて研ぎ澄ましていかないといけないかなと。そして、ゆくゆくは日本の音楽だとか文化の歴史の中で、欠かせない一要素になりたい。ま、実際にどうなるかは後世の歴史家のみが知る……ってことで(笑)。

kevin:超デカい会場でライブがやれるようにもなりたいですね。制作では緻密に作り込みながらも、ライブではしっかり“バンド”なんですよ。サポートでリズム隊に入ってもらって、よりバンド感のある形でやることもありますし、ライブ用にアレンジを変えることもある(笑)。僕もステージではミニシンセサイザーやグロッケンを弾いたり、サンプラーを叩いたり、PCで電子音を出して、色んな役割を担当できているのが楽しいですね。

towana:ライブは絶対楽しいので、ぜひ遊びに来てほしいですね。アニメを好きな方も、アニメを全く観ない方も、どんな方でも引っ掛かる要素が、fhanaってあると思うんですよ。言ってしまえば全方位型というか、だから、とにかく一度は聴いていただきたいですね。Youtubeには今までのシングルMVが全曲フルサイズであがってますので、まずは触れてみてください。

取材・文●清水素子







「View from New World Line」
iTunes限定配信リリース
<収録曲>
1.kotonoha breakdown feat. towana [新録]
2.街は奏でる feat. towana
3.未来 feat. towana
4.光舞う冬の日に feat. IA
5.True End feat. 多田葵
6.kotonoha breakdown feat. 名嘉真祈子

◆fhana オフィシャルサイト
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