【対談】松本孝弘×BARKS編集長、アルバム『New Horizon』への道程「今の自分なんて全く想像もしてなかった」
松本孝弘というギタリストの存在を知らない人はいないだろうが、彼がどのようなプレイヤーであり、どのような見聞を重ね『New Horizon』というアルバムを生むアーティストへ変遷したのか、その生き様をよく知る人はさほど多くないかもしれない。プロギタリストとしてのキャリアはすでに30余年にわたるからだ。若いオーディエンスはまだ生まれていなかった頃からの話である。
◆『New Horizon』TV-SPOT
たまたまだが、私は松本孝弘と同学年であり、同じ時期をプロミュージシャンとして過ごした経験がある。両者ともYAMAHAのエンドースを受けていたこともあり、彼の噂はよく耳にした。彼はスタジオワークで腕を磨き、浜田麻里やTM NETWORKのバックを務め、その名を轟かせ始めた。一足早くメジャーデビューした私だったが、数年で足を洗いメディア側に移った。ちょうどその時、日本青年館で開催されたB'zの初ライブで松本孝弘の勇姿を観て以来、作品がリリースされるたびに私は幾度と無くB'zの取材を重ねてきた。YOUNG GUITAR誌の編集長になった時、私の最初の大仕事は松本孝弘とエディ・ヴァン・ヘイレンとの2ショット表紙の実現だった。その時点で、松本孝弘は既に日本の誇るワンアンドオンリーの偉大なるギタリストとなっていた。
B'zとソロを基軸にしながら、様々な活動も経て松本孝弘は未知なる歩みを突き進んだ。ギブソンとの素晴らしきパートナーシップ、様々なアーティストとのコラボレーション、ハリウッド・ロックウォーク殿堂入り、そしてラリー・カールトンとの共演とグラミー受賞…松本孝弘の伝説はまだまだ続く。
素晴らしいトーンでB'zサウンドの根幹を担う松本孝弘が、『New Horizon』で見せた横顔はメローでしっとりとしたジャジーなインストである。日本のロックシーンをけん引する彼は、今何を見つめ、どこに向かおうとしているのか…下記は、ちょっと長めのトークセッションである。
◆ ◆ ◆
【松本孝弘×BARKS編集長による10000字オーバーLong Talk Session】
■B'zというロックバンドをやっていながら
■なぜソロ活動をするのか
烏丸哲也(BARKS編集長):唐突ながら、中高校生リスナーの代弁者として屈託のない質問をするんですが、B'zというロックバンドをやっていながら、なぜソロ活動をするんでしょう。
松本:あははは(笑)。へえ~。
烏丸:素朴な疑問なのではないかと。
松本:いや、それは自分の中ではとっても自然なことなんです。B'zは歌ものでソロ活動はインストゥルメンタルだから…、音楽家/ギタリスト/表現者としてはごく自然で当たり前なことなので、理由なんて考えたことがない(笑)。
烏丸:「ソロではインストをやる」というのは、自分で決めたルールなんですか?
松本:今となってはそうですね。今までいろんなことを演ってきて…例えばTMG(Tak Matsumoto Group)も演ってきたし、邦楽のカバーみたいなことも演ったし、いろんなことを演ってきたけど、インストゥルメンタルっていうのは、ここ何年かはすごく楽しいですね。面白さだとか可能性みたいなことはすごく感じていて、これはB'zとはまったく違うから、続けていきたいなと思いますね。
烏丸:B'zの活動とソロ活動が、お互いに刺激しあうことはあるんですか?
松本:それはあると思いますよ。例えばフレージングなんかも、今回のアルバム『New Horizon』で、僕にとってはけっこうチャレンジだったり、いろいろ試したりもしているんだけども、こういったフレーズの組み立て方とかは、B'zにフィードバックする可能性はありますよね。
烏丸:ギターを始めたばかりの昔の自分から今を見るとどうでしょう。こういうアルバムをリリースするギタリストになるというのは当時の想定内ですか?
松本:いや、それは全くないですね(笑)。だってその時の意識が全然違うじゃない? ティーンエイジャーでギターを始めた時というのは闇雲で、漫然と…例えばマイケル・シェンカーのようになりたいとか、エディ・ヴァン・ヘイレンのようになりたいとかって思っているだけじゃないですか。
烏丸:そうですね。現実味のない茫洋とした憧れだけで。
松本:そうそう。「アリーナのステージに立ちたい」みたいな意識までにも至っていないし、ひたすら「あの曲のこれが弾けるようになりたい」みたいなところから始まったわけだから。僕は15歳からギターを始めたけど、今の自分なんて全く想像もしてなかった。
烏丸:でも「プロとして食っていくんだ」という気概は既にあったんですよね?
松本:それは19歳ぐらいの時にはあった。実際に20歳から演っていたし。
烏丸:プロギタリストとしてスタジオワークを始めたわけですが、その時は自分の得意としない、興味のないプレイを演らされることになるんですよね?
松本:そうですね、思い描いてたものと全然違った。
烏丸:「プロってこんなもの?」って?
松本:プロになったら、大得意なソロが思う存分弾き倒せると思ってたんだけど、そんな仕事はほとんどなくて(笑)。ひたすらカッティングとかアルペジオをさせられて、ディストーションもかかってなくて、「あれ~?」みたいなのが何年か続きましたね。でもね、それはすごい良かった、今から考えると。
烏丸:そこでいろんなものを得た。
松本:そう。だって、もともと好きなことじゃないから、仕事でなきゃ練習しないもん。特にカッティングとか、いろんなコードを覚えたりとか、ああいうのはやっぱり仕事でやったことで、それが今すごく活きている。
烏丸:テンションコードとか、クリーンなカッティングなんて、そもそもカッコいいと思ってなかったよね。
松本:全然思ってなかった。
烏丸:それが今カッコいいと思える、その変化って何なんでしょう。
松本:それは多分、いろんな音楽を知ったからじゃないですかね。知ったし、自分でも演奏して経験したからだと思う。
烏丸:音楽的素養が深まった、広まったっていうことですか。
松本:それはB'zを始めた時に、すごくいい形で反映できたと思いますよね。今でもそうだし。
烏丸:スタジオワークで溜まった鬱憤を炸裂すべく(笑)、B'zをスタートさせたという側面もあるんでしょうか。
松本:そこまでスタジオに対してネガティブではなかったよ。いろんな人のレコーディングやツアーに参加させていただいたから、「もうそろそろ、人の背中を見て演っているのもなぁ」って思った時期があって。それでイチかバチか自分で始めようと思って。
烏丸:自分がフロントに立つんだ、と。
松本:そうそう、自分の楽曲っていうか自分の音楽で演る。人の曲でギターを弾くんじゃなくて。
烏丸:人の曲はもうさんざん演ったよって感じ?下積みはずいぶん長いわけですね。
松本:27歳でデビューしたんで、20歳から7年ぐらい演ってましたね。でもそれは下積みなんて辛く厳しいものでもなくて、楽しかったですよ。いろんなミュージシャンの人たちとの出会いもあったし、刺激もあったし、技術的にもいろいろ磨けたと思うし。プロで活動してるからこそ覚えられたこともたくさんありましたよね。
◆インタビュー(2)へ
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