【BARKS編集部コラム】~将来音楽が生まれなくなる?~ミュージシャンの耳が危ない

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◆「1分の脳リセットで難聴から逃れられる」
耳を守るという側面は、オーディエンス側である我々も同じ問題を抱えているが、遮音性と脳の働きには連動性がある点も重要だ。
カスタムIEMが耳に完全フィットし30dBもの遮音が実現できた時、人は「外の音が聞こえない」と表現するが、20dB程度の遮音でも「何も周りの音が聞こえない」と言う。これは急激に訪れたゲインの差が大きいことで脳が追いついていかないからである。いきなり暗いところに入ると何も見えないが、そのうち目が慣れてきて周りが見え始めるのと同じように、20dB程度の遮音では慣れてくると周りの音も聞こえ始めてくる。脳みその感度が切り替わるわけだ。

脳に休憩を与えるだけで脳はリフレッシュし、元のボリュームで満足できるようになる。聴き続けてたことで自然に上がってしまった音量だが、プレイヤーを止め1分もの静寂をはさむだけで、さっきまでの音量が爆音だったことに気付くだろう。無音によって脳をリセットし、満足する最初の小さな音量に戻すことを心がけるだけで、難聴へのリスクは大きく軽減できるわけだ。
遮音性が高いと脳へのリセットがしっかりと行われるため、より小さな音量で十分な満足度が得られるのもお分かりだろう。雑音の量を10~20dB分減らせれば、音楽の音量もそれだけ減らせるので被爆量は大きく下げられるのだ。
センサフォニクスによると、3dB下げられれば聴覚の疲れは半分に抑えられるという。要するに有毛細胞への負担が半分になるということだ。6dB下げられれば25%、9dB下げられれば12.5%にまで減らすことができる。私は日常でセンサフォニクス製のイヤー・プラグを愛用しているが、これは音質を変えずに9dB、15dB、25dBと遮音量をコントロールすることのできるシリコン製の耳栓で、ライブ会場での着用は欠かせないものとなっている。通常は25dBのフィルターを使っているのだけれど、9dBでは耳へのダメージが不安になるほど大きな音に感じるが、それでも12.5%まで疲労度を落とせることを思えば、逆にほんのちょっとしたきっかけで爆音にさらされ、しかもそれに慣れてしまうという怖さが常に隣り合わせであることを実感する。

“耳栓”と呼ばれているために、「音楽を演るときになんで耳栓やねん、いみわからん」と、はなっから無視されているのが現実なのだけど、これは音楽を聴こえなくするものではない。音楽のゲインをコントロールするものであり、耳へのボリュームを下げるコントローラーであり、言わばサウンド・アッテネーターというべきアイテムなのだ。イヤモニを使う現場が、大きな会場やテレビ番組など一部のビッグネームアーティストにまつわる話とするならば、小さなライブハウスでの爆音からアーティストの耳を守るのは、実はこのMusician's Ear Plugsに他ならない。
若いアーティストであればなおのこと、「聴力を守るのは自分自身の自覚しかない」ことを、手遅れになる前に知っておいてもらいたい。
情報提供協力:センサフォニックス
text by BARKS編集長 烏丸哲也
◆センサフォニックス・オフィシャルサイト
◆Musician's Ear Plugsサイト
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
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