【月刊BARKS 佐久間正英 前進し続ける音楽家の軌跡~プロデューサー編 Vol.5】2000年代のプロデュース~未来の音楽家へのメッセージ

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【月刊BARKS 佐久間正英 前進し続ける音楽家の軌跡~プロデューサー編 Vol.5】2000年代のプロデュース~未来の音楽家へのメッセージ

配信、ダウンロード、YouTube、ボカロ、DTM…劇的に変化し続ける音楽シーンは、もはやかつてと同じものではない。誰もが音楽を発信できる時代の中で、逆にその価値が低下してゆくことを直視しながら、それでも音楽を作り続けてゆく──。希望と絶望が混ざり合う時代の中で、プロデューサー・佐久間正英が思い募ることとは?

構成・文●宮本英夫

●BOΦWYやUP-BEATとかでやってきたスタイルが日本のロックの定型みたいになっちゃった。友達からはふざけてよく言われるんだけど、「佐久間がA級戦犯だ」と(笑)。●

──2000年代に手がけたもので言うと、どんなアーティストが印象に残っていますか。

佐久間正英(以下、佐久間):結果的に売れなかったけど、すごかった人がたくさんいたという印象がありますね。たとえばesrevnocとか、女子3人のバンドで、すごい好きでした。IORIちゃんも、すごい才能があった。松崎ナオも、そうでした。あと、僕が直接扱ったHAGANEというバンドも売れなかったけど、すごかったですね。2000年代は、売れるもの/売れないものが明確になってきちゃった時代なので、売れないものはそのあと続けようがなかったという、そういう時代に入っちゃってますよね。90年代の後半からすでにそうで、いろいろ出てくるんだけど、最初がダメならもう次がない。もったいないな、という人がたくさんいましたね。THE PANとかもそう。すごくいいバンドだったんだけど、うまくいかなかった。cuneも、うまくいったほうではあるけど、惜しいところでいつも何かが起きるんですよね。本当にもったいないと思います。

──プロデューサーとしては、2000年以降の音楽シーンをどんなふうにとらえていますか。

佐久間:いいアーティストもたくさんいたのと同時に、音楽がだんだん定型化してきちゃって、自由度が失われていった感じはあります。特にロックという土俵においては、新しいものはどんどん出てきてるのに、意外に閉鎖的というか、それまでのやり方を踏襲しちゃう感じがあった気がします。めちゃめちゃなことができなくなってきたというか、やる人も減ってきたというか。本当にこれは新しいなという音楽性が、あんまり表に出てこない。たとえば175Rは、売れるべくして売れる種類の、時代のど真ん中みたいな感じでしたが、彼らは特に新しいわけではないですからね。時代に対して直球だったから売れたと思うんですけど。たとえばジュディマリがやったようなことは、もうできない時代になっていると思います。

──音楽プロデューサーとしては、正直、やりにくい時代というか…。

佐久間:うん。だんだん定型になってしまって、A、Bを2回繰り返してサビ、間奏、大サビ、落ちサビがあって…とかね。昔僕が作ったような、BOΦWYやUP-BEATとかでやってきたスタイルがどんどん定型化してきて、それが日本のロックの定型みたいになっちゃった。新しいアプローチや、新しい時代のものをうまく取り入れてきたのがロックだったのに、日本のロックを踏襲するのが日本のロック、みたいになってきた。

──うーん、そうですね…。

佐久間:そういう意味では、友達からはふざけてよく言われるんだけど、「佐久間がA級戦犯だ」と(笑)。確かにそういう部分もあるなぁとは思います。


▲unsuspected monogram
──そんな中で佐久間さんは、2008年から「Circulator Tone Records」というレーベルを立ち上げて、自身がメンバーであるunsuspected monogramの作品をリリースしたり、活動の形態を変えましたよね。

佐久間:今につながる別の動きですね。

──インディペンデントな活動形態と言いますか。

佐久間:そうですね。要するに、プロデュースの仕事が減ってきたんです(笑)。実際問題、メジャーでの制作がどんどんできなくなってきたんですよ。以前にブログで書いて物議を醸した制作費のこととかが、リアルに変わっていった時代ですね。

──今後は、自身のレーベルを中心に、インディペンデントなスタイルでやっていこうと?。

佐久間:いや、レーベルは今は全然ダメです。CDでも配信でも、システム自体がここまで極端に変わってしまうとは、レーベルを始めた時にはまだ予測できてなかったんですよ。今の状況を見ていると、レーベルとかレコード会社というものは、もはや今までのような形では必要ないんじゃないかな? と思っています。僕にできる最大のメリットは、実際に音を作ることなので、その部分をやっていくしかないし、それを売るために、レーベルやレコード会社というものは必要ないと思うんですよ。しかも、今や音楽は、売れるものでも何でもないですから。今までは、売ることが目的で音楽を作っていたけど、音楽を作る目的はもう売ることじゃないんじゃないかな? と思うし、すでに現実的にはだいぶそうなってますけどね。

──それは、売るために作る音楽と、そうではない音楽と、はっきり分けているということですか?

佐久間:そうですね。ただ、売るための音楽というのも、今後どんどん売れなくなっていくと思うんですよ。AKB48的なことがよく話題になるけど、あれは普通に本を売るようなことと同じ考えで、ピンナップ仕様というようなことであって、あれを音楽の売り方と結びつけるのはちょっと違うなと。そう考えると、あれは音楽の売り方じゃなくて別の種類の売り方だと見ると、すでに音楽の売り上げというものはほとんどないわけじゃないですか。ジャニーズものも、そういう意味ではちょっと違いますよね。そう思うと、今までのスタイルの音楽産業というものは、どっちにしろ終わっている。現実には、ダウンロードすら面倒くさいという人も増えて、YouTubeで見られればいいやということになっている。そうすると、音質のことも含めて、考え方を変えていかなきゃいけない。

──はい。

佐久間:著作権とか、そのへんの考え方も変えないといけない。そうしないと、音楽産業のすべてがどんどん時代に取り残されていくと思うんですよ。たとえば「おやすみ音楽」は、JASRACも通さずに、著作権放棄で最初からやっていたわけです。あれは自分にとって実験だったんですね。実際に1,000曲という単位になると、管理しようがないわけですよ。だって、覚えてないんだから(笑)。まさかそんなことを、プロのミュージシャンがやっちゃうなんていうことは、過去には一切想定されてないわけじゃないですか? そういう、想定されなかったことが次々出てきている。で、先はどうなるのか、もちろんまだまだ見えないけれど、時代が変わったのは確かであって、その中で何をしたらいいのか。答えは出ていないですが、そこで少しは役に立つことができればいいかなと、僕は思ってるんですけどね。

──そこで、CDではなくライヴを活動の中心に置くという選択をするアーティストも、出てきていますよね。

佐久間:そうですね。ただ、「CDは落ちてるけどライヴは伸びてる」とよく言われる、あれも僕は違うと思っていて、ライヴももう伸びないと思うんですね。大きいライヴは別だけど、ライヴハウス・クラスのライヴの動員は、たぶん減っていると思います。きちんと調べたわけではないですけど。みんなそんなにお金を持ってるわけでもないし、音楽に使うお金がさらに減ったら、ライヴにすら行かなくなりますよ。そうまでして音楽を聴かない、音楽なんてあんまり必要ない世の中に、どんどん向かって行くだろうなと僕は思ってます。

──うーん…。

佐久間:でもそれは悲しいことで何でもなくて、仮にそうなったとしても当たり前のことだという、それが僕の今の感じ方ですね。その中で何ができるか、ということなので。前に、「すごい手彫り職人がいたら、どんな音楽でもできてしまう」という話をしましたよね(https://www.barks.jp/news/?id=1000091016)。あの技術がもしもできたとすれば、完全にミュージシャンを殺すわけですよ。音楽制作のすべてを殺すことができる。でも僕は必ず、そっちの方向に向かって行くと思う。で、その音楽の使われ方は、オーディオの前でじっと聴くのではなくて、環境の一部になると思うんですね。エンタテインメント・ショーは別に残るだろうけど。だから僕は潔く、そちらの方向に向かいたいなと思ってます。ミュージシャンを殺す方向に。

──はい。

佐久間:僕がやってきた道のりは、最初にシンセサイザーと出会ったところから始まって多重録音に向かい、今のDTMの先駆けをずっとやってきて、エンジニアリングも含めて自分ですべてやって、要するに今の状況を作ってきた張本人なわけですよ。で、スタジオはつぶれていく、ミュージシャンは仕事がなくなっていく…それをやってきた張本人なんで、それはさらにエスカレートさせたほうがいいと僕は思ってます。

──「A級戦犯」の名を背負って、さらに先へ進みますか。

佐久間:そう(笑)。で、僕は何十年も音楽をやってきて、未だにそうなんだけど…確かに仕事としてやってはいますけど、「こんなことでお金を得ていいんだろうか?」という気持ちがずっとあるんですよ。

──それは、以前のインタビューでも言われてましたね(https://www.barks.jp/news/?id=1000091016)。

佐久間:最近だと、タダみたいなお金でプロデュースをやってるものが多いんですけど、そのほうが心は健全ですね。インディーズでタダみたいな仕事でも、真剣度は変わらないんですよ。お金が発生しようがどうしようが、やってることは同じ。だから、音楽を仕事にするってどういうことなんだろうな? って、未だに思いますね。タダだからこんなもんでいいや、とはやっぱり思えなくて。じゃあ全部タダでいいじゃんと思いたいんだけど、そうすると生きていけないし(笑)。なかなか、そこはね。

──この長いインタビューも、ここで終わりになるわけですが…。あとはみなさんにゆだねます、という締めくくりにしましょうか。

佐久間:ただ、実際に音楽を作って行く環境としては、どんどん良くなっていて、どんどん楽しく自由にできるようになってきてるんですよ。あとは作る人のアイディア次第なので、全然悲惨な状況ではないんです。今話したのは、「音楽を商品として考えるとどうなるか」というところの話であって、仮に音楽を聴く人がどんなに減ったって、音楽はなくならないわけで。それに対して自由にアプローチすべきだと思いますね。ただ、さっきのロックバンドの話でも言ったように、自由な音楽がどんどんできる状況があって、ボカロが出てきたり、新しいものがどんどん出てきてるのに、やり方が自由じゃないのが残念だなと思います。もっともっと斬新な発想でやってほしいですね、若い人には。それを期待したいです。


佐久間正英は現在、脳腫瘍の手術後のリハビリに励んでいらっしゃいます。氏の回復をお祈りいたします。この連載は今回で完結となります。

◆佐久間正英 オフィシャルサイト
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