坂本龍一+テイラー・デュプリー、『Disappearance』とは?
7月10日に発売となる坂本龍一+テイラー・デュプリーの『Disappearance』。その発売直前、ICC(NTT インターコミュニケーション・センター)畠中実 氏によるライナーノーツより、『Disappearance』についての内容がどこからともなくリークされた。
『Disappearance』とは何なのか? 以下の文章より、その断片を掴むことができるだろう。
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『Disappearance』は、坂本龍一とテイラー・デュプリーによる初のコラボレーション作品であり、2006年から始められ、これまで断続的に行なわれた両者の「音楽的対話」のひとつの成果である。ふたりは、ニューヨーク在住であることや、2006年の坂本のアルバム『Chasm』の収録曲「World Citizen」のリミックスから、坂本のオンライン・プロジェクトである『Chain Music』( http://www.sitesakamoto.com/chainmusic/ )と『Kizuna World』( http://kizunaworld.org/english/index.html )への参加などをへて、2012年の4月にはジョン・ゾーンの主宰するスペース、The Stoneで共演を果たした。そのコンサートのリハーサル時に坂本のニューヨークにあるスタジオで、この作品の原型が録音されたという。
近年のデュプリーの作品に聴かれる、それまでの特徴であったミニマルな、いわゆるマイクロスコピック(顕微鏡的)な繊細かつ精緻に構築されたパルスビートではない、どこかアナログ的な質感を持つドローンとフィールドレコーディングによるサウンドおよびギターなどと、坂本のピアノおよび内部奏法やプリペアされたピアノによるイマジナリー・サウンドスケープが展開される。また、音の中に空気感が感じられるのは、録音時のものだろうか、もの音や椅子などの軋む音によるものだろう。
この作品のテーマは、孤立、孤独、内観、である。ブライアン・イーノは自身の音楽シリーズのひとつに「Music for Thinking」という名称を与え、アンビエント・シリーズの4作目『On Land』は「内面から体験する音楽」であるとしているが、『Disappearance』に収められた5曲は、そうした作品を連想させながら、アモルフ(不定形)な音の層と流れの中にさまざまな音が現れては消えて行く、非常に内省的な音楽である。
最終曲《Curl To Me》には青葉市子による心音をベースに、どこか千年をへた、かすれて消え入りそうな《Discreet Music》とも形容できるような音型の断片が聴こえる。それはどこに聴こえる音楽だろう。心音の心地よさは胎内を想起させもし、はたまた自身の体内へと思考を沈潜させ、孤絶させる。音楽は人々を連帯させもすれば、ひとりひとりを切り離し思考させるものでもある。
あらためて『Disappearance』とは、何の消滅なのか。わたしたちはようやくこれからの音楽について考え始めることができる。
音楽は聴く主体が消滅しても存在し得るか、音楽をあらしめるために人間は必要か、音楽は聴き手としての人間を必要としているか、誰のために作曲するか、人間のためにではない音楽は可能か、人間の思考や感覚を超えた音楽は存在するか、それは果たして音楽と呼び得るか…
畠中実(ICC主任学芸員)
坂本龍一+テイラー・デュプリー『Disappearance』によせて
耳の消滅、あるいはTHE END OF AN EAR より抜粋
◆commmons
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