【ライヴレポート】坂本龍一、フル・オーケストラとの共演となる<Playing the Orchestra 2013>
ここ2~3年の間、ソロ活動のほか、YMO、大貫妙子とのコラボレーション、クリスチャン・フェネスとのユニット・fennesz+sakamotoなどなど、さまざまな形態で音楽活動を展開している坂本龍一。先日は、坂本龍一のピアノと東京フィルハーモニー交響楽団によるフル・オーケストラとの共演となる<Playing the Orchestra 2013>が行われた。オーケストラと一緒に坂本がステージに立つのは、日本では16年ぶり。三公演しかないコンサートの二日目である5月9日に行われた、サントリーホールでの模様をお伝えしたい。
拍手に迎えられ、コンダクターの栗田博文と共に登場した坂本は、舞台下手にあるチェンバロの前に座り、静かに「kizuna」を奏で始めた。厳かな雰囲気で幕を開けた第一部。「still life」が終わると、マイクを持った坂本が、「生の音楽は生き物のようで毎日変わりますね。今日も良い演奏をお聴かせしたいと思います」と、独特の語り口で客席に向かって語りかける。オーケストラとの共演、サントリーホールというかしこまった空間ということで緊張感に包まれた客席が一気に和んだ。
映画『トニー滝谷』のサントラに収録された「Solitude」、映画「バベル」でも使われた「美貌の青空」の2曲が続く。「美貌の青空」は、映画に使われたのがピアノ、ヴァイオリン、チェロのトリオヴァージョンであるため、そのアレンジが耳に馴染んでいたが、オーケストラアレンジより深みが増す。その他の楽曲も、今回の3回のステージのために編曲し直したものもあり、今までオーケストラではやったことのない楽曲もあったという。例えば6曲目の「Castalia」は、YMOが1979年にリリースした『SOLID STATE SURVIVOR』に収録されている曲だが、もともと作ったときにはオーケストラをイメージしていたという。「30年以上ぶりに本物のオーケストラでやるんですが、やっと日の目を見たというか、なんというか(笑)。ちょっと違うかな?」と、本人も嬉しそう。第一部の終盤は、山下洋輔が絶賛し、坂本に紹介したという若手女性作曲家の挟間美帆のオーケストレーションによる三曲「0322 C# minor」「TRACE」「After All」が続いた。
「じゃあ、第二部をはじめましょう」と坂本のMCからスタートした後半。「Bolerish」が出来たいきさつに場内から笑いがこぼれる。この曲はブライアン・デ・パルマ監督の映画『ファム・ファタール』のために書き下ろしたものだ。監督からは「ラヴェルの“ボレロ”に限りなく近いものを書いてくれ」と頼まれたという坂本。
「作曲家としては非常にリスキーなことですし、音楽家生命が終わってしまうかもしれない(笑)。映画のほうが“ボレロ”っぽかったんですけど、今回は新しいアレンジで。僕の曲の方がメロディとしては良いかなと(笑)」
なるほど。こうして楽曲が出来た経緯を聴くと、また少し曲の聴き方が変わる。デ・パルマ監督からの注文も聞き入れつつ、どうやって自分のオリジナリティを追求していくか、当時の産みの苦しみまでも感じ、ニューアレンジの「Bolerish」を噛み締めた。グランドピアノの弦の部分までも大胆に使った演奏が印象的だった「Ichimei」、「Castalia」同様にオーケストラサウンドを意識して作ったというYMOのアルバム『BGM』に収録されている「happy end」と二曲続いたあとは、「一番最近に書いた曲」というおなじみの楽曲。NHKの大河ドラマ「八重の桜」のために書き下ろした「八重のテーマ」と、そのオープニングの「八重の桜」だ。毎週耳に馴染んでいる曲だけに親しみ深い。
そして、この後からは「Merry Christmas Mr.Lawrence」「Rain」「The Last EMPEROR」という、問答無用で普遍的な人気を誇る楽曲が並ぶ。「Merry Christmas Mr.Lawrence」は、大島渚監督の代表作で、坂本自身も俳優として出演している『戦場のメリークリスマス』の主題歌。「Rain」「The Last EMPEROR」は、坂本が音楽を担当し、アカデミー賞作曲賞を受賞した映画『ラストエンペラー』のために作った楽曲。繊細なピアノの旋律にオーケストラのスケール感とダイナミクスが加わり、鳥肌が立つほどの高揚感がわき上がる流れだった。「The Last EMPEROR」の最後の音の残響が消えた瞬間の拍手喝采は言うまでもない。
アンコールは、指揮者の栗田博文氏に促され、坂本が指揮棒を振った「The Shelterring Sky」「Aqua」の2曲。 「もう少し見たい!」という、幸福な余韻に包まれた。
さまざまな形で音楽を披露してくれる坂本龍一だが、どんな形で聴いても彼の作り上げるメロディは強い。オーケストラだから特別に良くなったということではなく、良いメロディはどんな形で演奏されても素晴らしいということを改めて感じたコンサートだった。
取材・文●大橋美貴子
<Ryuichi Sakamoto Playing the Orchestra 2013>
5月9日(木) サントリーホール 大ホール
1.kizuna
2.still life
3.Solitude
4.Bibo no Aozora
5.Amore
6.Castalia
7.0322_C#_minor
8.TRACE
9.After All
休憩 15分
10.Bolerish
11.Ichimei
12.happy end
13.Theme for Yae
14.Yae no Sakura
15.Merry Christmas Mr. Lawrence
16.Rain
17.The Last Emperor
encore
18.The Sheltering Sky
19.Aqua
◆坂本龍一 オフィシャルサイト
◆Ryuichi Sakamoto facebook
◆commmons
この記事の関連情報
坂本龍一を聴いて奏でる。『out of noise - R』発売記念 世界最速先行試聴会開催
坂本龍一、最後のピアノソロコンサート作品『Opus』配信リリース
NHKスペシャル『Last Days 坂本龍一 最期の日々』放送
東北ユースオーケストラと坂本龍一によるコンサート作品集発売
坂本龍一、毎月28日の月命日に公式T-shirts販売
坂本龍一の誕生日に一夜限りのスペシャルイベント開催
<AMBIENT KYOTO 2023>、撮り下ろしスペシャルムービーを11月20日(月)より期間限定公開&コラボイベント<ACTIONS in AMBIENT KYOTO>12月10日(日)開催
坂本龍一、最初で最後の長編コンサート映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』東京国際映画祭での上映決定
坂本龍一と高谷史郎のコラボ作品『TIME』日本初公演の詳細発表