【ライブレポート】真の意味でオルタナティブなロックバンド、ヨ・ラ・テンゴ

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2013年3月13日(水)ベルリン、ローザルクセンブルク・プラッツの伝統的なホール、フォルクスビューネ(Volksbühne)にてヨ・ラ・テンゴ(Yo La Tengo)のライブを観る。フォルクスビューネは、本当にヨーロッパ文化の伝統を感じさせる、僕の大のお気に入りのホールだ。

◆ヨ・ラ・テンゴ画像

「待望の春が到来しつつあるベルリンのフォルクスビューネでヨ・ラ・テンゴを見る!」というイベントを待ち遠しいのは別に僕に限った話ではなかった。前売りチケットは2週間ほどまえに完売。僕が通っているドイツ語学学校の教師クリストフはヨ・ラ・テンゴの大ファンで、12月にはチケットを購入、授業中もたびたびヨ・ラ・テンゴの話題を取り上げ、ニュージャージー州ホーボーケンの文化について、ちょっと嬉しそうに説明したりしている。ヨ・ラ・テンゴを知らない若いスウェーデン出身の生徒から「どんな音楽?」と聞かれて、「まあ、ソニック・ユースに近いかな?」と答えるクリストフ。ついでに僕の意見も聞かれたので、「ソニック・ユースのようなヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアバンギャルド感覚に、伝統的なフォークロック、バーズ(Byrds)みたいなセンスを見事にミックスしたバンド」などと答えた。「バーズといえばボブ・ディラン。ディランみたいな音楽?」とアメリカ出身の女子生徒の発言で、ヨ・ラ・テンゴというバンドの性格を説明しようとするクリストフと僕の試みは後退してしまったのであるが。一言でバンドのよさを表現するのは外国語の勉強よりも難しい。

ヨ・ラ・テンゴといえば、「現代のヴェルヴェット・アンダーグラウンド」「USインディーズロックの良心」などと形容される。彼らの音楽にはいつも、繊細で美しいメロディー、よいUSロックが持っている魅惑的なハーモニー、イデオロギー的な主張を持ち得ない現代の風景を描写して、それを美しいものに昇華するような歌詞が完備されている。そして彼らはロック通でもあり、ベルベット・アンダーグラウンド、フェアポート・コンヴェンション、フライング・バリット・ブラザーズ、トッド・ラングレンなどなどロックファンの琴線に触れる名曲をカバーすることを惜しまない。自分たちの聴覚を形成してきたロックやフォーク音楽の伝統に対する深い理解と造詣があって、その上で実験的なアバンギャルドな試みをしている。

また彼らはアメリカ以外の国のファンや音楽関係者を大事にしていることでも有名だ。日本のファンに対してもそうであることはよく報道されているし、それは、筆者が住んでいるベルリンでも同様だ。ベーシスト、ジェイムズ・マクニュー(James McNew)は、ベルリンのレーベル、Morr Musicからシングルをリリースしていたりするし、2006年のヨーロッパツアーではベルリンの女性アーティスト、マーシャ・クレラ(Masha Qrella)をサポート・アクトとして抜擢している。こういった彼らの国境を越えたミュージシャン・シップを象徴するかのように、フォルクスビューネには、マーシャ・クレラや、シュナイダーTM(Schneider TM)、Bandaranaik やKomeitのユリア・クリーマン(Julia Kliemann)、Minaのベーシストのノルマン・ニーチェ(Norman Nitzsche)、マルチ・ミュージシャンで舞台『ファウスト』などの音楽監督クリストファー・ウーエ(Chiristopher Uhe)などの顔が見られた。

20:00開演。第一部のステージはアコースティックなセットで、2012年の最新アルバム『FADE』からの繊細で白昼夢を見ているような珠玉の楽曲がメインのステージ。『FADE』は美しいメロディーとエレガントなノイズ、素晴らしいアレンジが光る、いつまでも聴いていても飽きない名盤だ。この『FADE』のおとなしい曲「Ohm」から始まり、ゆったりしたリズムとアイラ・カプラン(Ira Kaplan)の説得力あるヴォイスがUSアンダーグラウンド音楽の歴史を感じさせる「Two Trains」。2006年『I am not Afraid of You and I will Beat your Ass』からジョージア・ハブレー(Georgia Hubley)が歌う軽快なポップなナンバー「The Weakest Part」、ジェームスのソロ・フォークプロジェクトDumpでMorr Musicからリリースされている楽しいカントリーロック風ナンバー「Slow Down」、1989年10月にアイラとジョージアのフォークデュオで録音、1991年コンピレーション・アルバム『That is Yo La Tengo』や1996年『Genius+Love』に収録されているルー・リード風ポップ「Fog over Frisco」とファン心を気持ちよくくすぐる楽曲が続く。『FADE』からの楽曲に戻って、白昼夢を見ているような瞑想的なフォーク「The Point of It」、ジョージアのニコを彷彿とさせるシックなヴォイスと浮遊するギターフレーズが美しい「Cornelia and Jane」、アルペジオの響きとアイラのヴォーカルの“とつとつ感”が腹の底に響く「I'll be Around」。そして1995年『Electr-O-Pura』からのポップナンバー「Tom Courtenay」がジョージアのメイン・ヴォーカルでしっとりと奏でられ、とてもシックな第一部は終了。

打って変わって第二部のステージでは、アメリカのオルタナティブ・ロックの本領を発揮!2000年の『And Then Nothing Turned Itself Inside-out』からのナンバー「Night Falls on Hoboken」が、第一部のステージがまだ続いているかのような白昼夢から観客を、徐々にゆっくりと気持ちよいノイズ空間へと誘う。2012年『FADE』の「Stupid Things」のフリーキーな閃光のようなギターフレーズとアイラの歌の絡みが、スペーシーなフィーリングを醸し出す。1997年アルバム『I can Hear the Heart Beating as One』からの「Moby Octopad」のカッコいいベースリフにのって、クレイジーな音空間が展開される。2012年のアルバム『FADE』では最もビートが効いたナンバー「Paddle Forward」、1997年のヒットアルバム『I can Hear the Heart Beating as One』からの「Autumn Sweater」では、アイラの転がるようなハモンドオルガンの響きがとても美しい。ジョージアとジェイムスのドラムもとてもファンキーだ。『FADE』のジョージアの力強いドラムと歌が光る「Before We Run」は、バーズやソニックユースの名曲を想起させる。1991年4月ジェームスが加入後の初のレコーディング作品「Artificial Heart」の荒々しいカッティングギターと激しいビート、フィードバックとWall of Soundの嵐。2012年最新アルバム『FADE』から「Ohm」のエレクトリック・ヴァージョンを再演後、2006年『I am not Afraid of You and I will Beat Your Ass』の10分を超えるオープニングナンバー「Pass the Hatchet I Think I'm Goodkind」。ソリッドでミニマルなリフとビートが、スペーシーでフリーキーな美しい空間を構築!

興奮する観客に対して彼らは2回のアンコールで応え、2003年アルバム『Summer Sun』収録のジョージアの浮遊するハスキーヴォイスと、シンプルなギターリフがいいサーフィン風ナンバー「Today is the Day」、エレクトリック・イール(Electric Eel)のぶっ飛ぶようなカヴァーナンバー「Accident」、1997年アルバム『I can Hear the Heart Beating as One』からの牧歌的楽曲「Center of Gravity」を演奏。ジョージアのセピア色の歌声が美しい。そして、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのカヴァー「Who Loves the Sun」、『FADE』のさわやかな佳曲「Is That Enough」がしっとりと演奏されて、約3時間を超える充実したステージは締めくくられた。

個人的には『FADE』で一番お気に入りの楽曲、ブリンズリー・シュワルツみたいな「Well You Better」と、トッド・ラングレンの名曲カバー「I saw the Light」を聴きたかったが、いつまでも聴いていたいような素晴らしいステージであった。過去の音楽の良き伝統を継承しながら、新しい音楽を生み続けている1984年ホーボーケンにて結成されたこのバンドの姿勢は、1980年代という「全ての新しい試みは1960年代末のサイケと1970年代末のパンクで終わったのかもしれない」と感じた中途半端な時代に青春時代を過ごした同世代として、心底羨ましく敬意を感じている。真の意味でオルタナティブなロックバンドだ。

写真:Sebastian Nehen
文:Masataka Koduka

◆ヨ・ラ・テンゴ・オフィシャルサイト
◆Dump(ジェームス・マクニューのプロジェクト)サイト
◆Dump「Slow Down」soundcloud
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