【ライブレポート】時雨、9mm、ギターウルフ、ドレスコーズ、MUCCら競演<DECEMBER'S CHILDREN>

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音楽プロダクション「マーヴェリックDCグループ」が、毎年年末に開催しているオムニバス形式のイベントが、今回は<DECEMBER'S CHILDREN>と題したタイトルで、従来とは異なる顔ぶれで開催された。ラインナップは凛として時雨、9mm Parabellum Bullet、ギターウルフ、ドレスコーズ、MUCCらに加え、TK from 凛として時雨、ピエール中野、geek sleep sheepという、凛として時雨のメンバーの個別活動が勢ぞろいするのも大きな見どころ。ジャンルや属するライブシーンは必ずしも同一ではないが、だからこそそこにいかなる共通のキーワードを見つけるか、新たな音楽との出会いがあるかという意味で挑戦的なオムニバスだったのは確かだ。

◆<DECEMBER'S CHILDREN>画像

▲堕落モーションFOLK2

▲geek sleep sheep

▲MUCC

▲ピエール中野

▲TK from 凛として時雨

▲9mm Parabellum Bullet

▲凛として時雨

オープニングアクトにはHINTOの安部コウセイと伊東真一が不定期に活動するアコースティックユニット、堕落モーションFOLK2。安部のMCによると、10日前にオファーがあり急きょ出演と相成った。アコギ2本のシンプルなアンサンブルに乗る安部の強い歌声は時に少年のようでもあり、時に老練なブルースマンのようでもあり、言葉が直截に飛び込んでくる。【祈りにも近い不潔なメロディー】【叫びにも近い不潔なメロディー】というフックのあるラインが残る「不潔なメロディー」や、バンドマンの実像を描写したような「夢の中の夢」など、形態こそバンドではないが一筋縄ではいかないこの日のイベントの一番手として強い印象を残した。

本格的なライブはこの日で2本目(!)というgeek sleep sheep。改めてメンバーを紹介すると、百々和宏(MO'SOME TONEBENDER)、345(凛として時雨)、yukihiro(L'Arc~en~Ciel)、というこの日最強の目玉バンドである。赤いライトの中、トレードマークの白衣で登場した3人は、シューゲイザー、ニューウェーヴ、ガレージ、ドリーミーポップなどをアップデートしたギターロックバンドと言っていいだろう。聴きどころは345がメインボーカルをとるナンバーで、彼女の高音以外の地声に近い歌の新鮮なこと! そしてなんとこのバンドでも345による物販紹介コーナーがあるのもユーモラスで、百々とのやりとりも会場から笑いを誘った。

グッとスケール感のあるステージングで景色を変えたのはMUCC。ラウドロックとEDM(Electronic dance Music)的なエレメントが融合した「Mr.Liar」、アリーナサイズに見合う音圧がフロアの盛り上がりのギアを一段上げた印象の「G.G.」など、エクストリームなサウンドが映える。グロウルと伸びやかな声を使い分けつつステージの端から端まで動き、オーディエンスを煽る逹瑯。鉄板のMUCC流ダンスロック「フォーリングダウン」でフロアを踊らせたかと思うと、トライバルなビートにストリングスを同期させ、イマジネーションを掻き立てるミヤのギターも冴える「シャングリラ」では重厚な世界観も見せるなど、2012年、音楽的に新生したMUCCを体感させてくれた。

広いステージにライブハウスのようにメンバー4人がほど近く立ち、シンプルなステージングで魅せたドレスコーズ。ほぼ1年前に毛皮のマリーズの解散ライブを行った、その場所に再び立つことになった志磨遼平は、「こんばんわ、武道館。はじめまして、ドレスコーズといいます」とMC。飽くまでバンドの一員であることを目一杯楽しんでいるようだ。リズム隊の辣腕ぶりと、志磨、丸山(G)の今や外タレでも稀少なグラマラスでフリーキーななロックスターぶりの対照もユニーク。初見のオーディエンスが9割9分だと思うが、デビュー曲「Trash」がラストに演奏される頃には、彼らの初期衝動とロマンに満ちたロックンロールに感化され始めたのでは。

幕が降ろされ何やら細かにセッティングがされていると思ったら…開幕したそこにはドラムセットとともに君臨するピエール中野が! 凛として時雨のワンマンでも重要コーナーであるドラムソロを心ゆくまで披露、久々の“ドラマー・ピエール中野”の復活に嬌声混じりの拍手が起こる。続くはPerfumeの「レーザービーム」をバックトラックにオリジナルドラムをプレイ、MUCCのミヤとのセッション、そしてDJブースに移動して一声「ライブハウス武道館へようこそ! ここは東京ドームだ!」と己の理想をそのまま叫んで爆笑を誘う。「いろいろやりたいことを詰め込もうっていうので」と、普段はドラムセットからの合唱に留まる嵐の「A・RA・SHI」を、この日は曲を流しながら歌うという荒技も。続いて「僕が一番観てほしい人たちを紹介します」と、メタルアイドル、BABYMETALを招き入れ「ヘドバンギャー」を披露。大団円はおなじみX JUMPで会場をひとつにして去って行った…。2012年的なる人物、ジャンルを繋ぐハブはピエール中野なんじゃないかと真剣に思う。

赤いライトにただようスモークが、ライブという名のリングに上るギターウルフに似合い過ぎる。ロックンロールの初期衝動と気合いに満ちたアクトで世界を翔ける彼らが、初めて武道館のステージに立っているだけで何か熱いものが込み上げる。ひたすらコードをかき鳴らし、「ケンカロック」ではその名の通り、フィードバックノイズを増幅して会場をカオスに叩きこむセイジ。彼らのロックンロールは魂を爆音に変換すること、それがすべて。武道館全体がビリビリ鳴っているようなレッドゾーン振り切りまくりのアクトを終え、ギターもベースもかなぐり捨てられたステージに、しばしの沈黙の後、拍手が沸き起こった。

長めの休憩を挟んで後半の口火を切ったTK from 凛として時雨に対する歓声の大きさはオープニングSEの段階で期待の高さを伺わせる。日向秀和、BOBOに加えてバイオリンと鍵盤の5人編成でアルバム『flowering』の世界観をより立体的に表現する中でも、強く印象に残ったのはTKのボーカルがクリアに強く届くことだった。また、アコギでも複雑なアルペジオを確かに聴かせ、後半からエレキに持ち替えた「flower」でのギタリストとしての幅。ループかと思うほど正確無比なピアノとTKのギターの抜き差しや自在にグルーヴを操る日向のベースなど、一瞬たりとも目を離せない高度でオリジナルなアンサンブルはこのメンバーならではの醍醐味だ。終盤には新曲も披露し、息が止まるようなエンディングの迫力にいたるとこからため息が。ラストは静謐な音響が映像喚起力抜群な「film A moment」で完全に異世界へ連れて行かれた。

イベントならではのイージーゴーイングなムードが皆無な状態になったのもTKのアクトの成せる業だが、さてそこに現在屈指のライブアクト、9mm Parabellum Bulletが登場。アタリ・ティーンエイジ・ライオットのSEが響くだけで会場は俄然ヒートアップ。「Discommunication」「ハートに火をつけて」と、立て続けにファストなスカテイストで飛ばし、続く「Vampiregirl」とアゲまくりのメニューだが、卓郎(Vo/G)の「どうした、武道館!?」の煽りでいよいよオーディエンスに火がついたようだ。「“TK挟み”で(9mmのライブが)あれ夢だったのか? と言われないように頑張ります」そして「俺、ピエール中野の心意気にやられたわ」と笑いを誘い、「その心意気を見習って」と、新曲を披露。クランチなギターがメタルテイストだが、曲調はキャッチーという9mmの王道をアップデートしたようなニュアンスに湧くフロア。その後も、滝(G)のジャジーなフレーズが冴える「キャンドルの灯を」や、かみじょう(Dr)の2バスが地鳴りを起こす「新しい光」では、サビメロをファンに歌わせるなど怒涛の展開の中に温かなムードも。中村(B)のスクリームが地を這う「Talking Machine」から、ハンズクラップが自然と起こる「Punishment」まで、あっという間に9曲40分が終了した。

そして大トリは凛として時雨。本格的なライブは昨年のライブハウスツアー以来だけあって、オーディエンスの待望感は破格。静かにスタートした「illusion is mine」では先のgeek sleep sheepでも痛感したように345のボーカルがこれまで以上にクリアに届く。ディレイの洪水のようなギターサウンドが静かにエモーションを増幅する「DISCO FLIGHT」では、つい先程のTK from 凛として時雨と同一人物であるTKだが、“ロックバンド凛として時雨のギタリスト”の色が濃い。3人ともそうなのだが、個々の表現を経た今だからこそ、このバンドでしか有り得ないテンションやアンサンブルが明確に伝わり、そのかけがえのなさを体感する。「お久しぶりです」とTKがあまりにも自然体に一言発する。出だしから強力なフックで引きつける新曲「abnormalize」、ピエール中野のソリッドなビートで武道館全体が熱を帯びた「JPOP Xfile」とアッパーな展開で湧かせた後、TKから「ニュースがあります。6月28日にここでワンマンをやります」の発言に悲鳴のようなリアクションが。驚きと歓喜一色のフロアに向けて、ライブの鉄板ナンバー「Telecastic fake show」「nakano kill you」を連投。幾度となく演奏されてきた楽曲だが、3人で演奏することの楽しさがこれほど伝わってくることはかつてない。早くも武道館ワンマンへの期待が否応なしに高まる。

全アクトのステージをきっちり見せるという、フェスにはないスタイルは、音響や演出面も含め、おのおののバンド/アーティストの世界観や楽曲をより強く印象づけたのではないだろうか。約9時間の長丁場にも関わらず、全アクトの個性はしっかり記憶に刻み込まれたはずだ。

取材・文●石角友香
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