Eastern Glory Records、アーティスト自治のインディーズレーベル-インターネット時代の新風なるか

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「音楽はもう売れない」-これは近年よく見かけるフレーズだ。長引く不況下にある日本社会は、「嫌消費」の若者世代をも生み出し、消費者の購買意欲は低水準に安定している。一方で、インターネットの普及により、今や経済は大量生産・大量消費の時代を脱し、消費者のオンデマンドによりカスタマイズされた消費の時代となった。そんな時代の中にあっては、生きていくために絶対必要とはいえない「音楽」という商品は、消費の対象となりにくく、ビジネスの対象としてみればもはや魅力的な存在ではないのかも知れない。実際、好きな曲であっても、買わずにYouTubeなどで済ませてしまうという人も多い。これはアーティスト自身にとっても苦しい状況だろう。

しかし、購入にはいたらないにしても、音楽そのものの需要は実は大きい。このような社会状況にあって、誰もが不機嫌を抱え葛藤と戦う今日では、ライブ会場やヘッドホンの中に安らぎを見出す若者も意外と多いのである。CDそのものにお金を出さなかったとしても、聴く機会は絶やさない。間接的な消費の対象になっているのだろう。

そんな中、マーケットは小規模であっても、リスナーにとって必需品となるような音楽を発信するインディーズレーベルが、相対的に力を伸ばしている。音楽が消耗品とならないために、発信力が継続するのである。残響レコードの成功や、相対性理論などのインディーズバンドの活躍は、それを物語っている。

そんな中のひとつが、昨年発足したばかりのロック系インディーズレーベル、Eastern Glory Recordsだ。さすがにまだ大きな功績を残しているわけではない。しかしEastern Glory Recordsは、音楽は消費されるべきものではなく、リスナーの心に響く音楽を作るには、アーティスト本位の純粋な表現としての音楽を作る場が必要であるとの考えから生まれた。

原盤権を含めたアーティストの完全な著作権保持、売り上げの100%還元、必要最低限しか干渉しないシステム等、「完全アーティスト自治」とでもいうべき独自の形態をとった、今の社会状況が生み出したようなレーベルである。多少経営が心配になるが、あまりレーベルとしての大きな利益を生む意図はなく、少人数によるミニマムな経営、厳密なアーティストの選定、レーベル以外の業務などがこれを可能にしているようだ。

所属アーティストにはVATHOKIJAのヴォーカリストKEN石川の新バンドNAKED SPYや、TAIJI with HEAVENSのDAIとHAL(Alchemy Crystal)など、すでに知名度のある名前もあるが、基本的には全くの新人ばかりである。それでも厳選したアーティストの力を信頼し、育成にも力を入れているという。今年3月に発売したコンピレーションアルバム『the Unconsumabe』を聴いてみると、あまりのジャンルの広さに度肝を抜かれたが、散漫な印象はなく、むしろ一種のストーリー性すら形作っていた。このアーティスト発信ならではの挑戦的な姿勢は、アーティスト自治に対する不安を払拭した。

縮小の一途をたどる音楽シーンだが、大規模なマーケットである必要はそもそもないのだろう。今、リスナーはみなそれぞれにとってのヒーローを持っている。CDが消えたとしても、音楽そのものはなくならない。今のインディーズシーンを見ていると、そんな希望が少し芽生えた。

『The Unconsumable』
Eastern Glory Records
EGR-0001 \1,500(tax in)
01 MESSIAH
02 Birth
03 UNDHIFEAT
04 星の花
05 君に出会えて
06 Wisdom
07 MIZERBLE DEAFMUTE
08 トリップ
09 Space Elevator
10 雨心
11 土埃の花嫁
12 Everlasting

◆『The Unconsumable』全曲試聴
◆Eastern Glory Records オフィシャルサイト
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