「明日からは、自分のために。」新垣の言葉に高橋、涙にむせぶ ── モーニング娘。高橋愛 卒業公演
そして、アンコール。いよいよ、高橋愛の卒業セレモニーが始まる。暗闇の中で浮かび上がる、オーディエンスひとりひとりが灯した黄色い光。会場全体が高橋への感謝の気持ちで揺れている。
ステージ上には1本のマイクスタンドが用意され、そして高橋が登場。想いを綴った手紙を読み上げる。福井に住んでいた女の子が、友達が教えてくれた新聞広告を見て、モーニング娘。のメンバーにチャレンジする頃の話から、加入した当時より続く5期の絆。そしてラジオ番組『ヤンタン』で鍛え上げられた話。初めてソロパートをもらえた「そうだ! We're ALIVE」。卒業が決まってから、モーニング娘。がもっと好きになったこと。リーダーになりたての迷っていた頃に、つんく♂プロデューサーから言われた言葉から始まった、アットホームなモーニング娘。という形。メンバーへの感謝の言葉。新リーダー・ガキさんへの期待。スタッフ、そしてファンへの感謝の言葉……。
「みんな、大好きです!」
涙と笑顔でそう叫んだ高橋は、シングル「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」の“高橋愛 モーニング娘。卒業記念盤”に収録されているソロ曲「自信持って 夢を持って 飛び立つから」を披露。音をかき消すかのような大きな「愛ちゃん!」コールに包まれた彼女は、ステージを大きく動き回り、最後まで“かっこいい高橋愛”の姿を我々に見せつける。ギターが心地よいアッパーなサウンドで、<自信を持って 諦めないで / 輝け!未来>と熱唱するこの曲は、つんく♂から高橋へのメッセージであり、同時に高橋自身の決意であり、そしてモーニング娘。リーダーとして、メンバーへ、後輩たちへ、そしてファンへと向けた最後の激励でもあった。
モーニング娘。メンバーひとりひとりから、高橋愛へ向けての言葉が伝えられる時間。前日に発表されたばかりの10期メンバー、さらにステージには、松葉杖をついた光井愛佳の姿もあった。
「愛さんがリーダーの間にモーニング娘。に入ることができて、本当によかったなって思いました。たった2日間でしたけど、この2日間を本当に誇りに思います。」── 飯窪春菜
9期、10期にとって高橋愛は、自分が目指したモーニング娘。をリーダーとして作り上げてきた、憧れの人。その人の卒業を前に彼女たちは自分の言葉で、想いを伝えていく。「メアド変えてもまた教えてください」「後でサインください!」「一緒に新大久保に行って食べたトッポギが美味しかった」「(自分がモーニング娘。に加入したコンサートで、一緒に泣いてくれた)高橋さんの涙は、私にとっての宝物」。特に9期のメンバーは、加入して9ヶ月ながら、ここでも個性を発揮したコメントを次々に残す。後輩たちの言葉を聞き入り、リクエストされる最後のお願いに「もちろん!」と笑顔で快諾していく高橋。彼女たちの成長の早さがあれば、自分が抜けてもモーニング娘。は大丈夫。後輩の姿を愛おしそうに眺める彼女の眼差しには、そんな喜びや優しさを湛えていた。
そして「愛佳!」の声援がオーディエンスから巻き起こる。怪我のためにツアーを降板し、久しぶりに姿を見せた光井愛佳。彼女は、「もっと愛ちゃんから勉強したかった、吸収したかったです。」と、悔しさを滲ませながらも、「愛ちゃんのことがすごく好きです。愛ちゃんの表現力がすごく好きです。みんなとここに立って、卒業をお祝いできたことをすごく幸せに思います。」と気持ちを述べる。高橋は、怪我をおして駆けつけた光井のそばに寄って「ありがとう。」と、強く抱きしめた。
モーニング娘。の中で、高橋愛とともに歌唱パートが多く振り分けられていた田中れいな。「愛ちゃんとはライバルでもあったけど、一緒に助けあって、吸収できた。」「メンバーに会うのが気まずいなって壁を作ってしまってた時に、愛ちゃんだけは普通に接してくれた。」。モーニング娘。の中でも人一倍“芯の強い”この博多っ子は、熱いハートを持ちつつも、時に自分の気持ちを素直に使えない不器用な性格の持ち主。そんなれいなからの言葉には、「今までありがとう。」と、高橋への感謝の気持ちだけが、ただただ並んでいた。
「こんなさゆみなのに、いっぱい優しくしてくれたし、いっぱい愛を持って接してくれて、本当に嬉しかったです。」「愛ちゃんがリーダーだからこそ、今のモーニング娘。があると思うし、こうやってファンのみなさんとの温かい空気も、愛ちゃんだからこそできあがったもの。」。道重さゆみは、言葉を詰まらせながらも、新垣、そして6期の田中とともに、これからのモーニング娘。を引っ張っていくことを約束。「さゆみも新大久保に連れてって!」とおねだりしながら「愛ちゃん大好き!」と、抱きついた。
そして、サブリーダーとしてともにモーニング娘。を引っ張ってきた新垣里沙が高橋愛の元に。
「愛ちゃん、卒業おめでとう。私は、愛ちゃんと一緒に10年前に加入して、ずっと近くで見てて、一緒に頑張ってきて。愛ちゃんがリーダーになって、愛ちゃんは自分のことよりも、みんなのことを考えてこの10年間頑張ってきたから、明日からは、自分のために、前に進んで行ってほしいなって、心から思います。」── 新垣里沙
これまで、後輩からのコメントに気丈に笑顔で応えていた高橋だったが、10年にわたって、ともに苦しみや悲しみ、そしてそれより何倍も大きな喜びを分かち合ってきた5期の仲間を前にして、その目からは大きな涙がこぼれ、思わず手で顔を覆う。2010年12月の亀井絵里、ジュンジュン、リンリンの卒業セレモニーでも、凛とした姿で自分の弱い面は見せず、モーニング娘。リーダーとして卒業する者をひたすらに激励し、スポットライトの当たる場所では決して涙を拭うことのなかった高橋。そんな彼女が、メンバーからの言葉で崩れた瞬間だった。
「愛ちゃんとやってきたこの10年は、ほんとに一言や二言じゃ収まりきれない。でも、全部、私にとって大切で、素敵な時間でした。」。そう言って、新垣と高橋はしっかりと抱き合う。8500人のオーディエンスからは止むことのない拍手と歓声。そしてそのまま、ピアノのイントロで「友」がスタートする。高橋は、涙を浮かべながらも、ステージ上の仲間たちの頭を撫でたり、顔を寄せ合ったり。一方、高橋と並んだ9期の生田と鈴木は、涙で顔をくしゃくしゃにさせる。
そしてタブルアンコールは、メンバー、オーディエンスでの大合唱となった「涙ッチ」。涙を振り切るように歌い上げた高橋は、羽織っていたジャージやキャップ、リストバンドなどを客席に次々投げ込み、武道館の一番上のステージに立ち、深々と一礼する。そして一旦はステージを降りたものの、それでも止むことのない「愛ちゃん!」コールを受けて、再び登場。両手を広げて、ファンの気持ちを体いっぱいに受け止める。
最後の瞬間に涙はない。満足気な、幸せそうな笑顔とともに、高橋愛は、10年1ヶ月のモーニング娘。の活動にピリオドを打った。
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