テデスキ・トラックス・バンド、初上陸のロンドンで大喝采

◆テデスキ・トラックス・バンド画像

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シェパーズ・ブッシュ・エンパイアのスタンディング・アリーナは隙間なくぎゅうぎゅうづめ。1Fから3Fまであるバルコニー席も完全にぎっしり。年齢層は高めで男性中心。2000人以上の目の肥えたロンドンの生粋のロック・ファンで超満員の中、オープニング・アクトのロバート・ランドルフのペダル・スティールの超絶技巧で温められた会場は、もう今か今かとバンドの登場を待ちわびている。その中の一人には11月にエリック・クラプトンとともに8年ぶりの来日を果たす、スティーヴ・ウィンウッドの姿も。


イントロでデレクがインド的なフレーズを奏でると、そこからアルバム『レヴェレイター』の中でもどこか南の島を思い起こさせるような美しいナンバー「Midnight in Harlem」へ。ちょっとレイドバックしたようなミッドテンポのサウンドに、静かに波打つ海を思わせるような、デレクのスライドが美しい。デレクは相変わらずギターのエフェクターを一切使わず、アンプ直結で音を出している。このご時世にギター一発の音で勝負して、あんな美しい音色を奏でるなんて全く不思議、凄い。

4曲目でデレクとスーザンはギターをレスポールに持ち変える。曲は次のシングルとなる「Learn How To Love」。強力にリフがカッコイイこの曲でさらに会場中がヒートアップ。デレクは陶酔の表情で、ギターで自分の世界に入り込み、ある種仙人のようにも見える。これは会場中の人々のツボにドンぴしゃはまったようで一段と凄い歓声が高まる。きっと彼らの代表曲になること間違いなし。デレクは再びSGへ持ち替え、5曲目の「Until You Remember」へ。3連のソウル・バラードで、スーザンが歌い上げる様はまさに誰もがオーティス・レディングを思い浮かべたはず。


続く8曲目はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「Sing A Simple Song」。このファンク・ナンバーで、スーザンのギターがファンキーなリフを奏でるわけですが、きらきらの高いハイヒールにもかかわらず、ガッと足開いて豪快にワウワウ・ペダルを踏みまくり、これがまたカッコイイ。ギターを弾かないときはちょっとステップを踏んで踊りも見せながら、サビの“ナー、ナナ、ナーナ”を会場中に歌わせ会場中を一体にしていく様もお見事。

スーザンもデレクも再びレスポールを持ち替え「Come See About Me」へ。これまたスーザンのレスポールでのギターソロが冴えまくる。ガッと開いて、ハイヒールでワウペダル踏みつけ、ギターのネックをグイっと持ち上げチョーキング&ソロ弾きまくり。いや、ホントにスーザン姐さんかっこいいわ。デレクは曲の途中でSGへ持ち替え、そしてまた夫婦ギター掛け合いツイン・リード。

スーザンが「みんな気分はどう?楽しんでる?私たちは凄く楽しんでるわ!」と観客に問いかけると、もちろん大歓声で返す。そして興味深いお言葉を。
「このあいだ97歳になるおじいちゃんと話したら、こう言うのよ。たまにはみんながよーく知ってる曲をやんなさいよって。だからおじいちゃんのアドバイスに従って今回この曲をやってみるわ」と語ると、ドラムがモータウンでよく使われる立て乗りのタツ・タツ・タツというリズムを叩きだす。ツイン・ドラムだからこれがまたパワフル。そこにデレクのギターカッティングが絡みつき、スーザンはヴォーカルに専念。曲が始まると…これはびっくりのスティーヴィー・ワンダーの「UPTIGHT」。
これまでのデレクのライヴを考えると、これは非常に意外なナンバー。当然この曲ではホーンが大活躍。
それにしてもこのバンドは本当にうまい!本当に凄い!「UPTIGHT」もそのまま一筋縄では終わらない。途中からキーボードが不協和音的なフレーズを挟みこみ、ベースがうなりをあげて入り込み、そしてデレクのスライドが絡み合う…バンド全体のうねりがこれまた曲を違う次元に連れて行ってくれる。たぶん毎日違う演奏になるだろうからバンドもいつも新鮮だし、観ている方も楽しい。家族と見に来ていたスティーヴ・ウィンウッドも1Fバルコニー席の一番前の席で、冒頭はゆったりと見ていたものの、曲が進むに連れてどんどん身を乗り出し、一緒にノッて手拍子をしたり(ジミ・ヘンドリックスの曲ではさすがにすぐ反応。変則は手拍子で裏のリズムをとっていた)、デレクやスーザンのギターソロが終わるたびに手を挙げて大きな拍手を送っていた(隣に座ってたスティーヴの奥様はとにかく興奮して、特に同じ女性であるスーザンの一挙一動に注目していた)
そこからツイン・ドラムのソロになだれ込み、ドラムの掛け合いがまた素晴らしい。曲は「Bound For Glory」へ。ソロが終わるたび大歓声。会場中が一つの到達点へ向かっているかのよう。そこからはもうアンコールまで会場は興奮のるつぼ。テデスキ・トラックス・バンドのライヴ・パフォーマンスのマジックに完全にそこにいる誰もが取り込まれてしまった一体感。彼らのライヴはバンドと観客が毎回新たな空間を作り出していく、それが最大の魅力なのだろうと思う。
テデスキ・トラックス・バンドは、「スーザンとデレクの夫婦+バックバンド」というだけのバンドではないことがよくわかったライヴだった。スーザンの声もデレクのギターも、もちろん最大の魅力の一つだが、それぞれの個々のメンバーがすさまじいテクニックと深い音楽への愛情と情熱を持ち、彼ら一人一人の化学反応によってバンドが更なる高みへと昇っていく。まさに60年代や70年代のいくつもの伝説を作っていったロックバンドの最良の形がここにあるような気がした。
『レヴェレイター』
SICP3143 ¥2520(税込)
pix by Al Stuart
◆スーザン&デレク・アルバム紹介動画
◆テデスキ・トラックス・バンド・オフィシャルサイト(海外)
◆テデスキ・トラックス・バンド・オフィシャルサイト
◆BARKS洋楽チャンネル
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