J、AX 5デイズ第四夜 with サスライメイカー、ロットングラフティー
▲サスライメイカー |
「こんばんは。サスライメイカーです」
素朴な挨拶に続いて聴こえてきた1曲目は「四つ星のクローバー」。丁寧に紡ぎあげられるオーガニックなバンド・サウンドと、軽やかだけれども芯のある歌声が気持ちいい。が、とりあえず90%以上のオーディエンスは棒立ち状態。やはり轟音愛好家の比率が高いJのオーディエンスの前で演奏するというのは、彼にはリスクが大きすぎただろうか? もしかして、葬式みたいなライヴになってしまうんだろうか?
しかし、その曲が終わった瞬間、僕の嫌な予感は吹き飛んだ。信じられないほどに大きな拍手に、場内が包まれたのだ。音楽の種類や質感は違っても、届くべきものは届く、ということなのだろう。そんな状況のなかで磯部自身も緊張がほぐれたのか、「(この会場には)すげえいい人がおる!」と笑顔で喜びをあらわにしていた。もちろんそれ以降も、オーディエンスが暴れたり絶叫したりすることはなかったが、サスライメイカーなりの“熱”は、静かに場内に浸透していくことになった。
そしてこの夜、彼自身のなかには「もう一度、渋谷AXのステージに立つ」という目標が生まれることになった。それに向けての第一歩となる11月11日、渋谷O-Crestでの初ワンマン・ライヴにも注目したいところだ。
▲ロットングラフティー |
とにかく百戦錬磨のライヴ・バンドだけに、まったく不安感がない。音にも、歌声にも、一瞬たりともジッとしていることがないステージ・パフォーマンスにも、強引に観客の耳と目をとらえ、両肩をつかんで揺さぶるような力がある。そしてさらに重要なのは、楽曲そのものが素晴らしいということ。いわゆるミクスチャー系バンドのライヴを観ていて、“ライヴ自体はものすごいのに、楽曲がまったく印象に残らない”といった思いを味わったことがある人は、少なくないだろう。が、ロットングラフティーのライヴでそんな気持ちになることは、まずあり得ない。
しかも彼らは、観衆を笑わせながら歓声の音量を上げていく術にも長けている。「楽屋に居るJさんを引きずり出すぐらいに!」と歓声を誘い、続けざまに「みんな、バスローブ姿のJさん、見たいやろ?」と攻めてくる。実際、1時間ほど前に楽屋でバスローブ姿のJを目撃していた僕は、素直に笑うしかなかった。そんな楽しい空気を持続させたまま、ロットングラフティーの短いステージは幕を閉じた。そろそろ新しい音源への飢餓感も高まりつつある今日この頃だが、ニュー・アルバムの制作も着々と進んでいるようなので、楽しみに待っていたいところだ。
二組の充実したライヴが終わると、いよいよJの登場だ。今夜、テーマに掲げられているのは、2004年5月に発表されたアルバム、『RED ROOM』。西部劇調のオープニングSEに、赤い闇のようなステージが荒野に見えてくる。1曲目は、このアルバムの冒頭に収められていた「STAR」だ。
谷底でうごめくように始まりながら、スピードに依存することなく絶頂へとのぼりつめていくこの楽曲に触れたとき、僕は、当時この作品を「Jなりのブルーズ・アルバム」だと感じたことを思い出した。枯れてるとか、オヤジくさいとか、そういった意味ではない。何かを構築するのではなく、自分自身のなかにあるものを吐き出しているという感触、『Unstoppable Drive』で外に向いたベクトルが、ふたたび内面へと向かった結果としか思えない作品自体のたたずまいに、僕はとてもブルーズを感じたのだ。そんな性質を伴ったアルバムだからこそ、当時のJは自分自身の身を削るように作業に没頭していた。結果、あの頑丈な彼が本当に倒れ、ドクターストップを無視しながらこの作品を完成させたという事実も、今は懐かしい。
『RED ROOM』は、オープニングに据えられた「STAR」が象徴しているように、スピード感や音圧、ビートの激しさや音楽形態としての斬新さといったものに、まったく寄りかかっていないアルバムだ。だから瞬時に炸裂するのではなく、ジワジワと効いてくる。ゴング早々のドロップキックに吹き飛ばされるのではなく、ぐいぐいと締め上げられながら徐々に体力を消耗していく感じ。テキーラのショットではなく、焼酎のお湯割りという感じ。気が付けば全身が内側から赤く塗りつぶされている、という感じなのだ。そんな『RED ROOM』からの楽曲が並ぶなかに、砂漠に竜巻を起こすかのような「TWISTER」、最新型の起爆剤ともいうべき「Go Charge」や、長年磨き続けられてきた必殺技の数々が散りばめられていたりするのだから、強烈なライヴにならないはずもない。結果、この夜も僕は、汗だくになっていた。2階席でメモをとりながら観ていたはずなのに。
そうした熱は、放出する側であるJ自身にも確実に跳ね返っていたようで、なんと曲順を間違えるという彼にしては珍しいハプニングも勃発。Jが「着火してくれ!」と吠え、「PYROMANIA」の幕開けを宣言した次の瞬間、スコットが叩き始めたのは「Die for you」。スコットが間違えたわけではなかったのだ。
急遽、演奏を中断し、「貴重な瞬間だったな、おい」と笑ってみせたJ。それに続いた「このアルバムは、俺までも狂わせるようです」という言葉は、僕にはまったく冗談には聴こえなかった。
増田勇一
サスライメイカーからのメッセージ
https://www.barks.jp/watch/?id=1000020013
ロットングラフティーからのメッセージ
https://www.barks.jp/watch/?id=1000020014
<J SHIBUYA-AX 5 Days –ALL of URGE-10th Anniversary SPECIAL LIVE>
2007年10月6日(土)
[SET LIST]
-encore-
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