最上級のエンターテインメントを見せてくれた、HERBERT来日公演
大ヒットとなった前作『Bodily Functions』から約5年。ハーバートが、5月にハーバート名義では2枚目となるフル・アルバム『Scale』をリリースした。彼の作品は、常に遊び心に溢れていながら非常に知的だ。特に今回リリースされた最新作は、“多作にして駄作のない”ハーバート・クリエイティヴのなかでも極めてレベルの高い部類の作品であり、かつ最も聴きやすいアルバムに仕上がっている。
傑作との誉れ高い『Bodily Functions』の時点で、そのサウンドはすでにして完成の域に達していたように思える。しかし、本作を聴けば、その『Bodily Functions』で聴かせてくれた素晴らしいサウンドですら、彼にとっては一つのピースにすぎないということがわかる。『Scale』は、マシュー・ハーバートがこれまで手掛けてきた数々のプロジェクトの集大成のようなアルバムなのだ。
彼の掲げるPCCOM(=Personal Contact for the Composition Of Music:音楽制作における一身上の契約書)は、サウンド面のこだわりを端的に表している。これは、彼自身がより新しい、そして素晴らしい音楽を生み出すために、自らに課したルールだ。ドラム・マシーンの使用禁止、生楽器を模倣して人口的に作られたサウンドの使用禁止、他人の音楽のサンプリング禁止、楽曲の完成と同時に素材は破棄すること、などなど。
つまり、作曲において思考を停止させる一切の事物は排除すべし、ということだろう。このストイックに音楽を追求し続ける姿勢が、多くのリスナーやDJ、クリエイターからリスペクトを受ける所以だ。しかし、彼の作る作品は、知的ではあるが決して難解なものではない(無論、例外もあるが)。
ちなみに、本作のテーマは“石油産業”。中東の例を挙げるまでもなく、石油をめぐる数々の暴力は、20世紀最大の功罪のひとつだ。しかし、本作はそんなテーマと相反するかのように、かつてないほど“楽しい”アルバムに仕上がっている。ハーバートは以前こんな風に話していた。“コンセプトを直球で訴えかけるだけではなく、婉曲的な表現を用いてコンセプトを表現するほうがより効果的ではないかと考えたんだ。”これこそが、ハーバートのセンスというものだろう。
そんなアルバムを引っさげて、ハーバートが8月15日に恵比寿リキッドルームでライヴを行った。ハーバート名義では実に5年ぶりの来日となる。開演時間を15~20分ほど過ぎた頃に、ハーバートが登場。しかも、なんと赤いガウンに短パンという奇矯な出で立ち。サンプラーをいじり“こ”、“わ”、“よ”、“そ”と断片的な言葉のサンプリングが、徐々に“こんばんは、ようこそ”という出迎えの挨拶へ。
今回のライヴの編成は……
Matthew Herbert(Key)
Neil Thomas(Vo)
David Okumu(G, Vo)
Leo Tyler(Dr)
Ivo Neame(Key)
栗原健(Horns)
大阪ゆうき(Horns)
というもの。メンバーは全員、王侯貴族の寝巻きのような衣装を身にまとっている。なんだかおかしげな光景だ。きっと消費社会を謳歌する人々への批判なのだろう。Gilles Petersonのライヴ盤などでも紹介されているので、ご存知の方も多いかもしれないが、ハーバートは真のライヴ・バンドだ。録音物をただ再現するのではなく、演奏することで生まれるダイナミズム、パフォーマンスのなかで生まれるアクシデントを最大限に活かして聴衆を楽しませる。観客の声援をサンプリングし、それを12音階=スケール(“Scale”)に変換して曲へと展開させていく流れは、まさにスリリングの一言に尽きる。
2回のアンコールを含めて、わずか一時間強という短めのステージだったが、内容は想像以上に濃いものだった。名曲「オーディエンス」を演らなかったのは残念だったが、多くの観衆は、彼の自由な発想力と底知れぬクリエイティヴィティに触れることができたのではないだろうか? まさに至福の時間。何度も何度も繰り返しみたくなるような、素晴らしいステージであった。
■SET LISTHerbert at Liquidroom 2006/08/15
1. Something Isn't Right
2. The Movers & The Shakers
3. Birds Of A Feather
4. Movie Star
5. Those Feelings
6. Harmonise
7. Sugar
8. We're In Love
9. Moving Like A Train
~en1
10. Song With Words
~en2
11. Gold Dust
◆「Moving Like a Train」のビデオ・クリップはこちら
https://www.barks.jp/watch/?id=1000015624
傑作との誉れ高い『Bodily Functions』の時点で、そのサウンドはすでにして完成の域に達していたように思える。しかし、本作を聴けば、その『Bodily Functions』で聴かせてくれた素晴らしいサウンドですら、彼にとっては一つのピースにすぎないということがわかる。『Scale』は、マシュー・ハーバートがこれまで手掛けてきた数々のプロジェクトの集大成のようなアルバムなのだ。
彼の掲げるPCCOM(=Personal Contact for the Composition Of Music:音楽制作における一身上の契約書)は、サウンド面のこだわりを端的に表している。これは、彼自身がより新しい、そして素晴らしい音楽を生み出すために、自らに課したルールだ。ドラム・マシーンの使用禁止、生楽器を模倣して人口的に作られたサウンドの使用禁止、他人の音楽のサンプリング禁止、楽曲の完成と同時に素材は破棄すること、などなど。
つまり、作曲において思考を停止させる一切の事物は排除すべし、ということだろう。このストイックに音楽を追求し続ける姿勢が、多くのリスナーやDJ、クリエイターからリスペクトを受ける所以だ。しかし、彼の作る作品は、知的ではあるが決して難解なものではない(無論、例外もあるが)。
ちなみに、本作のテーマは“石油産業”。中東の例を挙げるまでもなく、石油をめぐる数々の暴力は、20世紀最大の功罪のひとつだ。しかし、本作はそんなテーマと相反するかのように、かつてないほど“楽しい”アルバムに仕上がっている。ハーバートは以前こんな風に話していた。“コンセプトを直球で訴えかけるだけではなく、婉曲的な表現を用いてコンセプトを表現するほうがより効果的ではないかと考えたんだ。”これこそが、ハーバートのセンスというものだろう。
そんなアルバムを引っさげて、ハーバートが8月15日に恵比寿リキッドルームでライヴを行った。ハーバート名義では実に5年ぶりの来日となる。開演時間を15~20分ほど過ぎた頃に、ハーバートが登場。しかも、なんと赤いガウンに短パンという奇矯な出で立ち。サンプラーをいじり“こ”、“わ”、“よ”、“そ”と断片的な言葉のサンプリングが、徐々に“こんばんは、ようこそ”という出迎えの挨拶へ。
今回のライヴの編成は……
Matthew Herbert(Key)
Neil Thomas(Vo)
David Okumu(G, Vo)
Leo Tyler(Dr)
Ivo Neame(Key)
栗原健(Horns)
大阪ゆうき(Horns)
というもの。メンバーは全員、王侯貴族の寝巻きのような衣装を身にまとっている。なんだかおかしげな光景だ。きっと消費社会を謳歌する人々への批判なのだろう。Gilles Petersonのライヴ盤などでも紹介されているので、ご存知の方も多いかもしれないが、ハーバートは真のライヴ・バンドだ。録音物をただ再現するのではなく、演奏することで生まれるダイナミズム、パフォーマンスのなかで生まれるアクシデントを最大限に活かして聴衆を楽しませる。観客の声援をサンプリングし、それを12音階=スケール(“Scale”)に変換して曲へと展開させていく流れは、まさにスリリングの一言に尽きる。
2回のアンコールを含めて、わずか一時間強という短めのステージだったが、内容は想像以上に濃いものだった。名曲「オーディエンス」を演らなかったのは残念だったが、多くの観衆は、彼の自由な発想力と底知れぬクリエイティヴィティに触れることができたのではないだろうか? まさに至福の時間。何度も何度も繰り返しみたくなるような、素晴らしいステージであった。
■SET LISTHerbert at Liquidroom 2006/08/15
1. Something Isn't Right
2. The Movers & The Shakers
3. Birds Of A Feather
4. Movie Star
5. Those Feelings
6. Harmonise
7. Sugar
8. We're In Love
9. Moving Like A Train
~en1
10. Song With Words
~en2
11. Gold Dust
◆「Moving Like a Train」のビデオ・クリップはこちら
https://www.barks.jp/watch/?id=1000015624
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