一生涯“モーターヘッド”<無骨と洗練、荒さと繊細さ、知性と本能>
一生涯“モーターヘッド” <無骨と洗練、荒さと繊細さ、知性と本能> |
英国が誇るパワー・ロック・バンド、Motorhead。そしてその創設者、兼ベーシスト兼、だみ声のヴォーカリストといえば、あのLemmy Kilmister。 彼は最近、アメリカのテレビ局VH-1が主催した“Top 40 Bad-Ass Countdown”(世界荒くれ者選手権とでも言おうか)で見事、5位に選ばれた。 ところが、彼の長年にわたる“わるさ”の数々を知る人々は、この結果に、「5位なんて嘘だろ、なんでもっと上じゃないんだ!」と驚きの声を上げた。 そう、わるさの数々…プロモーターに向かってチーズをぶっかけてみたり、いきなり人を追い回してみたり…これしきのこと、ほんの序の口だ。しかも、彼は53歳にしてまだまだ“現役”なのだ。大酒は食らう、朝の6時まで平気でパーティーする! 彼の悪名高き歴史の出発点は、Motorhead結成以前にさかのぼる。 一つ有名なエピソードして残っているのは、彼がJimi Hendrixのローディーをやっていた1968年のこと。ツアーの打ち上げパーティーの席で、なんと、サンドイッチやドリンクに密かにLSDを混入させたのだ。 「ほんきで笑えたぜ! 駐車場で見た光景は、まるでフェリーニ監督の『サティリコン』みたいだった!」 冗談で人々を混乱に陥れる…それは、Motorhead結成時からの風潮、そして原動力であり、25年経った今も変わらない。 彼らは少しも美しくないし、品もよくないし、おまけに、ちっともコマーシャルじゃない。ラウドで、アグレッシヴで、言うなれば、メインストリームに刺さったトゲのような存在。その点ではAC/DCに通じるものも多い。 最新アルバム『We Are Motorhead』における現ラインナップは、Lemmy以下、ギターのPhil Campbell、ドラムのMikkey Deeとなっており、約10年連れ添った仲間同士。サウンドは相変わらずのブルース・ベース・ロック。そこにスピード感と激しさと反体制的歌詞を乗せればMotorheadの伝統は築かれる。 「See Me Burning」「Stagefright / Crash And Burn」「We Are Motorhead」といったナンバーは、セックス、アルコール、ロックンロールの世界をストレートに歌い、「(Wearing Your) Heart on Your Sleeve」や、Sex Pistolsのカヴァー「God Save The Queen」には社会派メッセージも込められている。 しかし、彼らの膨大なバック・カタログの数と、世界中に散らばる忠実なファンの数を思ったら、別にアルバムなど作らなくても、適当にツアーだけして、あとは過去の栄光にすがってもじゅうぶん存在し続けていけるのではないか。 「そんなことはない。さすがのおいらも、いつの間にか、レコーディングってものが上手になっちまってねえ。しかも、アルバムを出すごとに何かかならず新しいことやってる。表面的には同じように見えるかもしれないが、中身を知ってるおいらにしてみれば、毎回かならず違った試みをしてる。そういった意味では、すごく安定感のあるバンドだと思うね。ファンをガッカリさせたことはない。まあ、これだけ長くやってると、存在じたいが当たり前ってとこもあるんだろうけどね」 確かに、Motorheadはサヴァイヴァーである。 スピード・メタルも、スラッシュ・メタルも、グランジも、ハードコア・ラップも、時代の移り変わりすべてを乗り越えてきた。数年前のインタヴューでLemmyは、スピード・メタルやスラッシュ・メタルが好きになれないのはブルースの心が足りないからだ、と発言したことがある。 それなら、最近流行のバンド、例えばSlipknotやKorn、Kittieについてはどう思っているんだろう。 「連中はロックンロールなんかじゃない。はっきり言ってスラッシュ・メタルより酷い。この前Slipknotのビデオを見たけど、あんなゴミを見たのは生まれて初めて。一体全体、メロディーはどこいっちまったんだ。ただひたすらシャウトして、跳ね回って、リフはあっても、覚えられるチューンがない。あんなものロックンロールと呼ばないでくれよ。邪道だね」 まあ、これを読んだ諸君の中には、どうせ中年おやじの“今どきのクレイジーな若者は…”的戯言だと笑う人もいるだろう。 しかし、忘れてはならないのは、そのLemmyの方がこれら若者たちよりよっぽどクレイジーだという事実。その点を配慮すれば、彼の発言もまんざらでもない。 その上彼は、近頃のバンドがやたら挑発したがるモッシングについて憂慮している。彼には思い当たるフシがあるのだ。 その昔、MotorheadとSlayerが一緒にツアーで回ったとき、彼はSlayerのフロントマンTom Arayaに、発言にだけは気をつけろと警告した。しかしある日「Reign In Blood」を演奏中、Arayaは客席に向かってこう言ってしまった。「おまえたち、血を見たいか!」。すると、一人のファンが椅子を引き剥がし、Arayaに向かって投げつけ、危うく頭を直撃するところだった。キレたArayaはショウを途中でストップ、そして「その後ヤツは15分ほどマイクに向かってまくし立て、興奮したようにステージ上を歩き回って、怒鳴りちらかしてた。で、やっとステージから降りてきたとき、俺は目の前に立って「だろ?」って顔してやった。ロックやってる連中がつい忘れがちになるのは、我々にいかに力があるかってこと。俺たちの発言一つ一つをまるで教典のように信じてる連中がいて、気をつけないと、言ったとおりのことをやりかねない。言葉で煽るのもいいけど、本気で受け取る輩もこの世にはいるんだよ…」 場合によっては、煽ってもいないのに混乱が生じることもある。 「つい最近のトロント公演で、中身が入ったままのコーラの缶が飛んできて、おいらの頭に命中した。眉間のここ(と指を指す)。ほら、まだコブが残ってるだろ。その瞬間、俺はショウを中断した。そして、客席に向かってこう吠えたんだ。“今、こいつを投げたエラいヤツ、手を挙げてみろ、隠れてんじゃねぇ! おまえにこいつを投げる勇気があるんなら、今ここで名乗り出る勇気もあるだろ、え?”。し~ん。“どこにいるんだ、鼻ったれ小僧、今すぐステージに上がってこい。この俺にてめえのツラを一発殴らせろ、それでおあいこってものさ! さあ、出てこい!”。もちろん、誰も名乗り出ては来なかったけど、さぞかし犯人は肩身の狭い思いをしたんだろうね」 この手の暴力行為についてばかばかしいと思いつつも、一方では、なぜ最近のメタル世代が昔以上に無秩序で、アグレッシヴで、怒りをあらわにのするか理解もできるという。 「キッズは怒ってるんだよ。なぜって、親どもがイカれちまってるからさ。子供は子供なりに気付いているのさ。親たちは何一つ答を出しちゃくれないってね。親なんてクソったれだと思ってる。例のコロンバイン校での乱射事件、覚えてるだろ? あの一週間ほどあと、どこかのクソ政治家が、アメリカ中の学校に十戒を掲示させる法律を通そうって言い出した。それっていったい、なんの得になるわけ? そいついわく“もっと前から貼りだしてれば今度の事件は起こらなかった”だってよ。信じられないアホ野郎だよな。ところが、そんなアホ野郎の言葉を鵜呑みにして信じちまうアホどもも、実際には少なくないんだよ。ところが、子供たちはばかばかしいとわかってる。それがアメリカの現状さ。不平等な二重基準の存在。“悪人はどんどんムショにぶち込め、だけどうちのそばにムショは建てるな”ってね。へんだろ?」 「だからってアメリカ批判をしてるわけじゃない。嫌いだったらわざわざ住みに来ないもの。俺は反アメリカ主義じゃない。信じてくれ。LAには10年近く住んでるしな。だからといって、盲目的な愛国精神は不健康だ。ヒトラーは“正義も過ちも、我が祖国”と言ったが、とんでもないスローガンだ。祖国だろうとなんだろうと、過ちを犯しているなら、正そうとする気持ちがなければならない。さもないとただのファシズムになってしまうだろ」 ファシズムといえば、Lemmyはナチス・ドイツ関連のコレクターとしても有名だ。第三帝国にも強く惹かれている。いわく、ヒトラーは“初めてのロックスター”。なぜなら、あの派手なパフォーマンスでドイツ国民を楽しませたからだ。が、Lemmyの興味を引くものは、あくまでこけおどしの部分である。 「短剣やら制服やら旗やらがえらくカッコよく見えた。最後にして究極の全体主義的虚飾だ。ローマ帝国と同じだね」 だからといって、Lemmyがヒトラーの思想に共感しているわけではない。いや、実際のところ、嫌悪している。 「コレクターだからといって生活に取り入れる必要はないだろ? 鉄道マニアがみんな機関士ってわけじゃないのと同じさ。なぜそんな疑問をもたれるんだろう。物を集めることが、性格の一部とは限らない。いや、二つは別物なんだ。しかも、俺の彼女は黒人だぜ。ヒトラーが聞いたら腰抜かすって(笑)! ちなみに、彼女の誕生日はヒトラーと同じなんだ」 彼の第二次世界大戦に関する知識は実に奥深いが、同じぐらい奥深いのが音楽のルーツ。共演してみたいヒーローのリストには、Chuck Berry、Little Richard、Dave Edmundsなどの名前が挙がり、実際Dave Edmundsはその昔、Motorheadとして初めて行なったレコーディングのプロデュースを手掛けている。 またLemmyは最近、Stray CatsのドラマーSlim Jim Phantomと、多忙なセッション・ギタリストDanny B.と共に、ロカビリー・クラシックスを集めたアルバムを作った。そう、Buddy Holly、Elvis Presley、Johnny Cashの世界。そしてMotorheadとしては、Koch RecordsからリリースされるTwisted Sisterのトリビュート・アルバムで「Shoot 'Em Down」をカヴァーしている。 つまり、LemmyとMotorheadの世界には、常に二面性が存在しているのだ。無骨と洗練、荒さと繊細さ、知性と本能。確かに新作では“おれたちゃモーターヘッド、品格なんてありゃしない”と歌っているかもしれないが、実際のLemmyはディープな人間なのだ。 もしそんな彼の内面に興味がおありなら、近日発売予定の自伝『White Line Fever』をお読みなるといい。元RIP誌の編集者で、Launch.comのコントリビューターでもあるJaniss Garzaとの共作となっている。 そして本日の結論。 それは、Motorheadというバンドに対して無関心でいることは難しいということ。Lemmyもそう思ってるようだ。 「大好きか大嫌いか、どっちかしかないみたいだね。まあまあって中途半端に思ってる人はいない。賛成か反対か、二つに一つということさ」 by Bryan Reesman |
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