――新作『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』は演奏やアレンジ面での変化が際立っていますが、曲作りの面でもこれまでとの違いはありましたか?
ニック・ヴァレンシ(G):あったと思うよ。こいつらとやっていく方法も違ったし、特にジュリアン(・カサブランカス:Vo)との作業が今回は違ってた。彼は前ほど自分の曲をコントロールようと思わなくなって、みんなをどんどん曲作りに参加させるようになった。それに、前とは違うサウンドの響き方や、新しい種類の音楽を作っていくことに対して、ジュリアン自身がオープンになった気がする。
――へええ。
ニック:それに彼自身も、それぞれのメンバーが曲にどんなものを付け加えることができるかってのを、すごく聴きたがっていたよ。つまり新たなパートを書いたりとかって意味でね。でも、それっていいことだと思うんだ。なにしろそのおかげで、全員が自分たちの中から沸き起こってくるものをごく自由な気持ちで受け止めることができたし。大体の場合、僕らは言葉を交わす必要さえなかったんだ。ただ全員で座って、すぐに素晴らしい音が出る。“お前すごくいい音を出してるな、俺もちょっとやってみようかな”みたいに止まることもなく、ただいろんなことがごく自然に起こったんだよ。それは、素晴らしいことだと思う。
――ということは、バンド・メンバーの絆もより強くなったと?
ニック:音楽的には、確実にそうだよね。
――聴いている限りでも、何より本作のキーワードは“変化”だと思いました。実際に制作中に“変化”について話し合われたりしましたか?
ファブリジオ・モレッティ(Dr) :そうだね……“変化したい”という気持ちは、最初からあった。だから制作のプロセスにおいて、話し合うこともあったよ。それはたとえば、新しいプロデューサーと仕事をすることについてとかね。ただ、実際のレコーディングのメカニズムの中では、曲を作るってことはあくまでオーガニックに沸き起こるものだから。
――ファブのドラムも、これまでのような正確無比で乾いた音色ではなく、情熱的で様々なアレンジを施したものになっていますね。
ファブ:ごく自然に、曲から生まれてきたものだと思うよ。このアルバムはこれまでより広い視点から生まれたもので、だからこそ曲は以前よりもスロウだったり、様々な要素が混在していたり……そういう意味では、他の2枚のアルバムとは全く違うんだ。それでいて、このアルバムの芯にある部分は前の作品たちとの違いはない、とも言える。だから、僕らが意識的に“俺らはロックンロールな、メタルな音を出すバンドだ!”とか意識した部分は、全くといっていいほどないんだよね。
――ギター面でも、アルペジオを多用したキラキラした豪華さが全面に出てきて驚きました。ニックとアルバート(・ハモンドJr:G)はリード・ギターとリズム・ギターを分けないプレイでも知られていますが、今回そのあたりをどう役割分担したんですか?
ニック:俺とアルバートのギターのスタイルは、かなり違うんだよね。アルバートはシンプルな3コードのリフを弾いても、ある種のヴァイブみたいなものを入れ込んで、幻惑的かつ連続的なものが生まれる。一方で俺のスタイルは、それよりアグレッシヴで、意志の強い感じというか。だから時には全く正反対の方向の音を出すときもあるし、時には互いの役割を交換することもできる。それをどういう風にそれを組み立てるかは、それこそ曲ごとどころか、曲の部分ごとに違ってくるんだよね。だから、互いに話し合って“お前はこうすれば?”とか“こういうコードを、こういう風に演奏すれば?”みたいにコミュニケーションをとりながら膨らませてゆくプロセスもある。で、また別の時には、ただ、音が生まれてゆくこともあって。たとえば「エレクトリシティスケープ」では、僕らは一言も言葉を交わすことなく、明らかに彼はこう弾くだろう、そして俺はこう弾いてゆく、みたいな作用がごく自然に起こったよ。
――今作での音階の使い方は、クラシック音楽とかからの影響もあったりしたんですか?
ニック:いや、むしろロックの歴史の中にあるものから拾い上げていったというか。で、それをギターで今回これほどフィーチャーしたのは、別にクールなものにしたかったからではなく、むしろいかにメロディアスな音を作れるかっていう気持ちからかな。それがつまり、今回のアルバムで僕らがやりたかったことでもある。
――充実した録音光景がお話を聞いていると浮かんできますが、レコーディングで一番幸福感を感じた日はいつでした?
ニック:全てが完成した日、かな。
ファブ:そうだね。完成した日は、ちょうど僕の誕生日の朝7時だったんだ。6月2日、朝7時。そこまで18時間から20時間くらいブッ続けで作業をしていて、最後にジュリアンの歌を録音したところで完成したんだ。その朝はみんなが、全曲を入れたCDを持ち帰ったよ。細かく手を加えなきゃならない部分はまだ残ってたけど、僕にとっては手にしたCDは、まるでトロフィーのような重さがあったね。1年かけて一生懸命がんばった成果が、ここに詰まってるんだって。
取材・文●妹沢奈美
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