誰かに自分の気持ちを伝えなきゃならない、ここ一番。
たとえば、好きな人に想いを告白するとき、されたとき。 その想いが直情的であればあるほど、周りの空気はピンと張りつめ、心臓はぎゅーっと力強く握られるような感覚になって、その大切な言葉を口に出した(出された)刹那、辺りの時間は何かに引きつけられたかのようにピタッと止まる。そして、その気持ちが相手に届けられると、今度はそれまで周りにあった緊張感がゆっくりと解けていき、なんともいえない開放感と優しさが満ちてきて、心がフッと浄化されたような感覚になる。 大阪出身の高校3年生。まだ17歳の絢香の歌にも、そんな感覚がある。人を惹きつける歌。時間を止める歌。芯のある歌。力強い歌。それでいて、そこはかとなく優しさも備えた歌。それはイコール、エモーショナルな歌、ということだ。 今年8月28日に渋谷CHELSEA HOTELで行われたライヴと、10月13日に渋谷O-EASTで行われたライヴ。僕はそのふたつのステージを見た。彼女初の本格的なライヴステージとなった前者はアコギ、キーボード、ヴァイオリンという、自ずと歌を剥き出しにしてしまうシンプルな編成。ステージはキャロル・キングの「I Feel The Earth Move」のカヴァーから始まったが、生まれて初めて聴く彼女の第一声からは、ほんの僅かだけれど、ジャニス・ジョプリンの影が垣間見えたりもした。そして、後者はそこにエレキギター、ドラム、ベースを加えた、ロック鳴りのフルバンド編成。形態は異なれど、どちらのステージでも、絢香は17歳とは思えぬほどの堂々とした佇まいで、卓越した歌唱力を披露してくれた。 パワフルで、太くて、伸びのある声。絹の優しさというより、麻の強さを持った声。とにかく彼女が歌い出すとググッと周囲の視線がステージ上に集まるのだ。特に、どちらのステージでも最後に歌われた「三日月」になると会場の空気が一変。大切な人への健気な想いを三日月に重ねたこのスロウ・バラードになると、絢香の歌声はさらに直情的になり、会場にフッと緊張と静けさが訪れる。まるで、そこだけが世の中から切り取られたような別世界。そして、知らず知らずのうちに観客は彼女の歌世界に引き込まれていき、歌が終わると、心底から彼女の歌に心が震わされていることに気付くのだ。聴けば、誰をも惹きつけてしまう名曲「三日月」。その証拠に、すでに「うた♪ぴあ」「MTV Sounds」で着うたで配信されている同曲は、デビュー前の新人にもかかわらず、洋楽トップ・アーティストに匹敵する月間1000ダウンロードというペースを記録しているという。 アコースティックなロック・サウンドの上で、天性の歌唱力を武器に、心に何かを伝えることができるシンガー・ソングライター、絢香。わずか17歳にして、驚異のポテンシャルを持つ彼女は、いよいよ来年デビュー。音楽の神様は、ここにまたひとつ、新たな歴史の1ページを開こうとしている。 文●猪又 孝(DO THE MONKEY) |